第9.相続権を持つ親族と相続順位
1.相続人とは
故人の遺産を「包括的に承継する」ことができる人を「相続人」といいます。
包括的に承継するとは、プラスの財産だけではなく、借金も含めて引き継ぐことを意味しています。
反対に、相続をされる故人を「被相続人」といいます。
2.相続人の順位とは
(1)民法の規定
相続人の順位は、民法887条乃至890条にかけて、規定されています。誰が相続人になるかは、事例によって、何通りもありますので、基本となる条文から考えるのが適切です。
(2)配偶者相続人と血族相続人
相続人には、血のつながった相続人(血族相続人)と、配偶者相続人の2種類があります。
配偶者は、常に相続人の1人に含まれます(民法890条)。
一方、血族相続人には、順位があり、先順位の相続人が1人もいないときに限り、後順位の相続人に順位がまわってきます(民法889条1項)。
(3)血族相続人の順位
①第一順位
被相続人の子は、第1順位で相続人となります(民法887条1項)。
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、その者の子(被相続人の孫)が代わりに相続人となります(民法887条2項)。このように、尊属の代わりに相続人となることを「代襲する」と表現します。代襲して相続人となった人を代襲相続人といいます。
さらに、 被相続人の孫も、相続の開始以前に死亡していたときは、その者の子(被相続人のひ孫)が、代襲して相続人となります(民法887条3項)。
親権の有無は無関係です。
被相続人に離婚歴があり、前妻または前夫との間に子がいる場合、仮に被相続人が親権者ではない場合でも、「子」であることは変わらないため、その子は、相続人となります。
このような事例では、現在の配偶者と前配偶者との間の子とが、2分の1ずつ相続分を取得するため、とても協議しづらい状況となります。
離婚後に養育費などを支払い、面会も続けるなど、良好な関係を築いていれば良いですが、そうでない場合、争いとなる場合が多いです。
孫やひ孫がいれば、第1順位の相続人となります。
なお、第1順位の「子」、もしくは、代襲相続人の「孫」や「ひ孫」が1人でもいるのであれば、その方が、相続人となるので、第2順位の直系尊属や第3順位の兄弟姉妹は相続人になれません。
②第二順位
被相続人に、子、代襲相続人(孫)、再代襲相続人(ひ孫)がいないときは、直系尊属が相続人となります(889条1項1号)。
直系尊属とは、被相続人の両親や、祖父母、曾祖父母などを指します。両親の兄弟などは含みません。
注意すべきは、両親がいないときでも、祖父母や相曽父母まで相続権があるという点です。
直系尊属が複数人生きている場合には、より親等の近いものが、その人数によって、相続分を分散して取得します。
③第三順位
第2順位となる直系尊属が誰もいないときは、最後に、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります(民法889条1項2号)。
子や直系尊属がいない夫婦について、相続が発生すると、夫婦が長年連れ添っていた場合でも、「兄弟姉妹」がいれば、兄弟姉妹が配偶者と一緒に相続人となります。
妻が長年連れ添ったという場合には、兄弟姉妹らは相続を放棄することが事実上多いです。しかし、配偶者が、死亡直前になって婚姻したとか、先祖の家や土地を守るつもりがない場合などに、自らが遺産を守ろうとして、権利を主張することがあります。
なお、被相続人の兄弟姉妹が相続の開始以前にすでに死亡していたときは、その者の子(甥、姪)が代襲して相続人となります(民法889条2項で民法887条2項を準用)。
一方で、甥、姪が相続の開始以前に死亡していたときは、その者の子(甥や姪の子)はさらに代襲して相続人になることはできません(民法889条2項が民法887条3項を準用していない)。代襲相続できるのは、甥、姪の世代までです。
ここは、第1順位の相続人と異なるため、注意が必要です。
3.代襲相続とは
代襲とは、本来相続人となる者がすでに死亡している場合等に、その者に代わって、その子が相続人となることです。
例えば、第1順位の相続人として、長男と次男の2人いたけれど、長男が被相続人より先に亡くなっている場合、長男に子がいれば、長男の子と次男が一緒に相続人になります。
代襲相続と数次相続の違いには注意が必要です。
数次相続(すうじそうぞく)とは、相続人が、被相続人の死亡後に遺産分割をすることなく亡くなった場合です。
そのため、数次相続と、代襲相続とでは、死亡の順番が異なります。
代襲相続は、亡くなった相続人の子(被相続人の孫)が代わりに相続人になることで足りますが、数次相続であれば、相続が2回以上発生しているので、先ほどの例で言えば、長男の相続人全員(長男の配偶者と子)が、長男の代わりに相続人として遺産分割に参加することになります。
代襲相続の場合、配偶者は相続人となりませんが、数次相続の場合、配偶者も相続人となるため、注意が必要です。
4.相続分(相続する割合)と相続人の順位の違い
相続人の順位が決まったら、その相続人の中で、それぞれが遺産を取得する持分割合がきまります。
相続順位とは、だれが相続人となるのかという問題で、相続分とは、相続人の中で何割ずつ相続するかという問題です。
5.行方不明者がいる場合の対応
法律上、相続人が誰なのか分かっていても、その人と連絡がとれなければ、手続を進めることができません。
そのような場合には、通常、弁護士に依頼して、その者の所在をつきとめることになります。
- 第1.死亡後に必要な届けや手続きの一覧と届出先・必要なもの
- 第10.相続に必要な出生から死亡までの戸籍謄本等の取り寄せ方
- 第11.遺産分割の全体像(遺産分割協議書の作成・法定相続分・具体的相続分・寄与分・特別受益・分割方法)
- 第12.死亡直後に問題となる故人の契約(賃貸契約・水道光熱費・クレジットカード)の相続手続・清算方法
- 第13.相続の放棄のメリット・デメリットと相続の放棄の期間・手続
- 第14.死亡した家族の所得税・相続税の申告・納税の手続
- 第15.家族が業務中に死亡した場合の労災保険の申請や損害賠償の流れ
- 第16.遺産分割協議書には何を書けばいいのか
- 第17.遺言書による名義変更・相続手続の流れ
- 第18.遺留分を裁判所で争う訴訟のポイント
- 第19.遺産分割の調停と遺産分割の前提問題に関する訴訟のポイント
- 第2.遺族が忘れずに申請しておくべき葬祭費・埋葬料・遺族年金などの手続
- 第20.遺産分割事件の長期化によるリスク
- 第21.相続時に親子関係や認知を裁判で争うポイント
- 第22.使途不明金を争う訴訟のポイント
- 第3.葬儀費用と香典で遺産相続トラブルを避けるための記録・清算のポイント
- 第4.お墓の管理と相続でトラブルにならないための2つのポイント
- 第5.葬儀費用を争う訴訟のポイント
- 第6.故人の免許証の返還手続
- 第7.遺産(不動産、保険、株式、投資信託など)の名義変更・相続手続
- 第8.遺言書の発見と確認方法
- 第9.相続権を持つ親族と相続順位