第18.遺留分を裁判所で争う訴訟のポイント

1.遺留分とは

 遺言書で遺産を取得できないことになった相続人は、遺言書により遺産を多く取得した受遺者、相続人から、一定限度の遺産を取り返す制度です。

 

 また、遺言書が無くても、遺産のほとんどが生前贈与され、遺産からの相続財産が少なくなった相続人は、多く取得した受遺者から一定限度の遺産を取り返すことができます。

 

 遺言書や生前贈与によって遺留分に達しない遺産しか相続できない状態を「遺留分が侵害されている」と表現します。

 

2.遺留分の計算方法

(1)計算の概要

 まず、いくら取り返すことができるのかを検討するにあたり、遺産から自分に最低限確保されるべき金額(遺留分額)がいくらあるのか計算する必要があります。

 

 遺留分額が決まれば、現実に受け取った遺産との不足分(遺留分侵害額)を確定し、これを相続人や受遺者に返還していくことになります。

 

(2)遺留分額の計算

 現に残っている遺産だけを基準とすると、生前贈与により遺留分すら満足できない額しか残らない場合がありえます。そのため、遺留分額を計算するときは、生前贈与された額を加算して債務を控除した金額を対象に個別的遺留分率を乗じます。

 

 個別的遺留分率は、それぞれの法定相続分に総体的遺留分を乗じたものです。

 

 総体的遺留分は、2分の1もしくは3分の1です。

 

遺留分額の算出方法

(被相続人が相続開始時において有した財産の価額+生前に贈与した財産の価額-債務)× 個別的遺留分率=遺留分額

 

(3)遺留分侵害額

 遺留分額がわかれば、次に、遺留分侵害額を計算することになります。

 

 自己が現に受け取った財産が、遺留分額に達しているのか確認し、遺留分額に達していない場合には、不足する金額(遺留分侵害額)を取り返すことができます。

 

 なお、遺留分額を計算するにおいて、生前贈与の額を加算したこととの均衡上、遺留分侵害額の計算において、過去に自己が生前贈与によって受けた分を差し引いて計算する必要があります。

 

 遺留分侵害額の計算

遺留分額-(自分の相続による取得額-相続債務分担額)-(自分が取得した特別受益の受贈額+自分が取得した遺贈額)=遺留分侵害額

 

3.遺留分減殺請求の期限と方法

(1)遺留分減殺請求の期限

 遺留分を主張して、遺留分額に不足する金額の返還を求めることを遺留分減殺請求といいます。

 

 遺留分減殺請求は、死亡の事実及び減殺すべき贈与または遺贈のあったことを知った時から1年で時効により消滅します。

 

 また、死亡日から10年を経過すれば、遺言書の存在を知らなくても請求できなくなります。(民法1042条)。

 

(2)遺留分減殺請求の方法

 時効で消滅しないように、1年以内に遺留分を請求する旨の意思表示を行う必要があります。

 

 口頭でも遺留分を請求することはできますが、証拠が残るよう文書で送付すべきでしょう。

 

 このとき、遺留分減殺請求を行使する旨を明示しましょう。

 

4.裁判で遺留分を争うポイント

(1)手続の概要

遺留分減殺請求は、相続に関する紛争ではありますが、すでに遺言書がある場合に、その一部の返還を求める請求ですので、遺産分割とは制度が異なります。

 

 したがって、遺産分割調停を行うのではなく、受遺者や相続人に対して、個別に、相続財産の返還を求める調停または地方裁判所への訴訟を提起する必要があります。

 

(2)調停の流れ

 まず、当事者間で話合い、これにより決着がつかないときは、家庭裁判所に調停を申し立てます。

 

 家庭裁判所の場所は、調停の相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。

 

 調停は、非公開の場で行われ、当事者同士が対面しなくても、調停委員や代理人を通じて解決を図る制度です。

 

 遺留分制度は法律上の制度ですので、受遺者はこれに従い返還するしかないため、ほとんどの事例において、調停か、調停前の話合いにより解決されます。

 

(3)民事訴訟の流れ

 調停で話合いが成立しない場合には、地方裁判所(遺産などの額によっては簡易裁判所)に対して、民事訴訟を提起する必要があります。

 

 訴訟では、主に、遺産の額、債務の額、生前の贈与の有無・額、遺産の評価額などが審理されます。

 

 遺留分減殺請求は、その計算が複雑になることが多く、弁護士の関与が事実上必要不可欠な訴訟類型となっています。

 

 可能であれば、調停段階から弁護士を入れ、訴訟まで至らないよう解決することが望ましいでしょう。

 

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