第19.遺産分割の調停と遺産分割の前提問題に関する訴訟のポイント

1.遺産分割調停の概要

 遺産分割の調停とは、家庭裁判所を介在して、当事者で、遺産分割について合意による解決を目指す制度です。

 

 遺産分割の審判とは、家庭裁判所が、遺産の分割について、終局的な判断をする裁判のことです。

 

 調停は話合いの手続で、審判は遺産分割の分け方を裁判所に決めてもらう手続です。

 

 法律上、遺産分割を解決するための制度として、調停と審判の2種類が用意されています。ただし、実務上、いきなり審判を申し立てても、まずは、当事者に話合いをさせるため、裁判所は調停手続に事件を移します(家事事件手続法274条1項)。これを調停に付する(付調停)といいます。

 

 そのため、実務では、まず、遺産分割の調停を申し立てます。

 

 調停により、遺産分割について合意ができれば、調停調書と呼ばれる書面に、その合意内容を記載し、調停を成立させます(家事事件手続法268条1項)。

 

 調停が成立すれば、その合意によって、遺産の取得者とされた者は、金融機関に赴き、単独で名義変更や解約行為等ができるようになります。

 

 調停で合意ができなかった場合、遺産分割についての審判の申立てがあったものとみなされ、裁判所が終局的な解決案を示す審判を行います。

 

 審判では、例えば、不動産が共有のままになる等の当事者の望まない解決となることもありますので、調停で成立させることが望ましいです。

 

2.遺産分割調停の手続の流れ

申立先: あなた以外の相続人のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または、当事者が合意で定める家庭裁判所
費用: 印紙1200円と郵便切手(必須)、弁護士費用(任意)
参加者: 原則相続人全員。脱退は可能。
必要書類: 申立書、戸籍謄本、相続関係図、遺産資料等

 

(1)費用

 遺産分割調停を申し立てる際に、裁判所に納める費用としては、印紙1200円と郵便切手です。

 

 その他、弁護士を代理人に立てるときは、弁護士費用が発生します。

 

(2)調停の場所

 調停の管轄裁判所は、相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または、当事者が合意で定める家庭裁判所です(家事事件手続法245条)。

 

 後者を合意管轄と言いますが、相手方の同意が得られない場合は、認められません。

 

 自分以外の相続人は「相手方」になりますので、他の相続人の1人の住所地の家庭裁判所に申し立てることになります。

 

 なお、家事調停と異なり、家事審判の管轄は、相続が開始した地(被相続人が死亡した地)を管轄する家庭裁判所になります(家事事件手続法191条1項)。このことから、調停ではなく、遺産分割審判を申し立てるという人もます。

 

 この場合でも、付調停となり、原則として相手方の住所地の家庭裁判所において処理されますが(家事事件手続法274条2項本文)、当該相続開始地の家庭裁判所も自ら処理することができます(家事事件手続法274条3項)。どちらになるかは、家庭裁判所の判断になります。

 

 ただし、通常、遺産が存在するのは、相続開始地、つまり、お亡くなりになった住所地の近辺であることが多いので、相続開始地で、調停を行えるのであれば、それが望ましいです

 

(3)調停に参加する者

 揉めている人とだけで遺産分割の調停を行うということはできません。相続人全員が参加する必要があります。

 

 関わりたくないという方は、相続の放棄を家庭裁判所で行い、相続人の地位をなかったことにするか、他の相続人に対する相続分の譲渡などの手続をとれば脱退することが可能です。

 

 全員が参加するといっても、全員が常に出席しなければならないわけではありません。実務上は、対立する当事者のみ出席し、あまり興味がない相続人は、書面のやりとりのみで和解を成立させることもあります。

 

 また、実際に顔を見て話し合いたいという方も、必ずしも、管轄の家庭裁判所まで出向く必要はありません。お近くの家庭裁判所に出頭し、審理を行っている家庭裁判所と、映像をつないで、話し合うというテレビ会議の方法もあります(家事事件手続法258条54条)。なお、テレビ会議は、家庭裁判所の設備がない箇所もあり、また、設備があったとしても、事前に裁判所の許可が必要となります。

 

 弁護士が代理をすれば、弁護士が代わりに出頭することになり、出頭しなくてもよくなります。そのため、他の相続人と顔を会わせることもありません。ただ、家庭裁判所ではそもそも、対立当事者が顔を会わせないよう、交互に調停室に入るよう運用されていますので、できるだけ、自分も出頭して進めていくほうが、結果に納得ができるでしょう。

 

(4)必要な書類

 相続関係と遺産の範囲が分かる書類を提出する必要があります。具体的には、調停申立書のほか、戸籍謄本、住民票、相続関係図、不動産登記簿謄本・固定資産税評価証明書、通帳の写し・残高証明書、金融資産の金額を証明する資料、相続税申告書、不動産査定書などが必要です。

 

(5)いつ弁護士に依頼すべきか

 遺産分割調停は話合いの手続ですが、証拠の収集や分割方法の提案は、当事者主導で行う必要があります。

 

 相続関係図を作成したり、財産を調査したり、遺産の評価額を検討する作業は大変です。

財産を調査するよう裁判所から指示されても、調査をせず

、不足しているため、調停を繰り返し、長期化することは多々あります。

 

 また、使途不明金や遺産の管理費用などの遺産の付随問題については、法律的な判断が必要となるため、当事者だけでは交渉が困難です。

 

 したがって、遺産分割調停を早期に解決するためには、申立前から代理人を立てるべきでしょう。

 

3.遺産分割調停・審判のポイント

 遺産分割調停は、①戸籍からわかる相続人同士が話し合い、②現存する遺産を、③どのように分けるか、協議する場です。

調停が成立しない場合には、審判に移行しますが、審判で決まるのは、上記③だけです。

 

①の相続人の範囲や②の遺産の範囲に争いがあることを、遺産分割の前提問題と言います。万が一調停が不成立になったときに、これらの前提問題は、遺産分割審判では結論がでません。

 

(1)遺産分割の前提問題とは

 相続人の範囲の問題、遺言書の効力・解釈の問題、遺産分割協議の効力、他人名義の遺産の帰属性は、遺産分割の前提問題と呼ばれます。

 

 これらの点について、合意が得られる見込みがないときは、遺産分割の調停・審判の前提として、民事訴訟や人事訴訟によって先行して決着をつけなければなりません。

 

(2)遺産分割の付随問題とは

 使途不明金、葬儀費用の清算、遺産管理費用の清算、遺産収益の分配、相続債務の整理・分担、祭祀承継などは、遺産分割とは直接関係しないものの、併せて調停で協議されることが多いため、遺産分割の付随問題と呼ばれています。

 

 調停で話し合いはできるものの、これらは付随問題に過ぎないため、調停が審判に移行したとき、これらの点については判断の対象外となり、遺産分割の調停の後日もしくは並行して、民事訴訟や、遺産分割とは別の家事調停を申し立てる必要があります。

 

(3)調停での一体的な解決

 遺産分割調停に加えて、さらに別途、民事訴訟や家事調停を申し立てるとなると、手続が煩雑となり、訴訟費用も発生することから、これらの前提問題や付随問題についても、遺産分割調停の中で一体的に解決を図ることが望ましいです。そのため、可能な限り遺産分割調停の場で、交渉を行い、解決を図りましょう。

 

 ただし、調停は、あくまで話合いの手続きであり、相手と合意できなければ、遺産分割の前提問題や付随問題については何もきまらないまま終わってしまいます。遺産の前提問題や付随問題が原因で、調停で話合いがつかない見通しであれば、別途、民事訴訟等の裁判手続きを平行して進めるのがいいでしょう、

 

4.他人の名義の預金を分けるには

 亡くなった方が相続税対策等の理由で、親族名義で預貯金を蓄えていた場合、相続開始後、その親族名義の預貯金はどうなるのでしょうか。遺産分割の前提問題としてよく争点となるのが他人名義の預金です。

 

 金融機関は、支払先を名義人で判断します。そのため、名義人となった親族が支払を求めれば支払うでしょう。

 

 しかし、相続人からすれば、被相続人が貯めた預貯金なのに、名義人が全て取得することに納得できないこともあるのではないでしょうか。

 

 被相続人が形式的に第三者名義で預貯金を貯めていた場合、実際には、その預貯金は被相続人の遺産であることになります。

 

 しかし、被相続人が生前に第三者に贈与したものだとするなら、それは遺産から分離しており、遺産ではないことになります。

 

 全くの第三者の名義になっている場合、その名義人である第三者を相手に、その預貯金が被相続人のものであり、遺産であるから、自分も相続人として預貯金に共有持分があることを確認する預貯金の帰属確認請求訴訟を提起し、遺産であることを確定する方法があります。

 

 また、預金が相続人の1人の名義になっており、共同相続人間で遺産であることに争いがある場合には、相続人全員を相手にした遺産確認の訴えを提起することもできます。

 

 これらの手続を経て、遺産として確定できたら、他人名義の預金を対象に遺産分割を行うことになります。

 

 遺産であることを確定しないまま、遺産分割調停を申し立てても、第三者名義の預金が遺産なのか不確かなままでは、遺産として分配することができません。

 

 もちろん、名義人である第三者が遺産であることを認めていたり、相続人が生前贈与としての特別受益性を認め、預金以外の他の遺産からの取り分を少なくして調整できる場合には、民事訴訟まで提起しなくとも調停で解決することもできるでしょう。

 

 しかし、残された遺産が少なく調整ができない場合や、相続人以外の名義にされている場合には調整ができないことがあります。

 

 調整ができなければ、家庭裁判所が行う遺産分割の審判においては、他人名義の預金については判断できないので、別途民事訴訟で確定する必要があります。

 

 他人名義の預金について、遺産性を争う民事訴訟のポイントは大きく2つあります。

 

1つ目は、、他人名義の預金が、被相続人が出捐した(資金を出した)預金と言えるかです。

・次に、2つ目は、他人名義の預金が、死亡時に被相続人に帰属していたかです。

 

 例えば、預貯金が、被相続人の定期預金を解約したものをそのまま名義を変えただけである場合や、被相続人が定期的に積立をしていた口座であれば、被相続人が出捐した預貯金だったと言えるでしょう。

 

 そして、その名義人となった第三者が、生前に、その預金の管理や使用を一切していなかった場合などでは、贈与の事実もなく、名義借り預金として遺産と言える可能性があります。

 

5.遺産分割を弁護士に依頼するメリット

(1)適切な裁判の手続を選択できる

 遺産で揉めている場合には、何で揉めているのかによって、選択すべき裁判所が、家庭裁判所なのか、地方裁判所なのかが変わってきます。そのことを認識しないまま進めていても、時間を無駄にするだけです。

 

 遺産分割の前提問題や付随問題も、調停では話し合うことはできますが、調停はあくまで話合いだけです。話合いで解決できない場合には、民事裁判を提起するしかない場合もあります。

 

 弁護士であれば、万が一、家庭裁判所で解決できず、民事訴訟を提起するしかないという場合でも、適切に対応することができます。弁護士が土俵についていることで、いずれ民事訴訟を提起されるのであれば、時間をかけずに、調停で一体的に解決しようという判断になることもあります。

 

(2)相続人が多数でも最後までやり遂げられる

 遺産分割をしていると、相続人の1人にさらに相続が開始して、また一から戸籍を収集しなければならないこともあります。そもそも、世代が異なると、どこに住んでいるのかも分からないということもあります。

 

 弁護士であれば、相続関係調査や所在調査も行うことができます。仮に行方不明でも、家庭裁判所に財産管理人の選任を申し立てる等の手続に精通しているため、最後まで分割をやり遂げることができます。

 

(3)遺産に関する交渉を任せることができる

 親族間で、遺産の話を直接行っていると、色々な意見が出てきます。片方から見れば、管理が大変なだけである田畑であっても、もう片方からは売却すれば現金化できる資産と見られることもあります。

 

 遺産分割は、一方が明らかに間違っているというより、お互いに落としどころが分からなくて、長期化している場合がとても多いです。

 

 親族間で、何年も、遺産の話合いを続けて、仲が悪くなっては故人の意思に反します。

 

 弁護士は、相続人と一緒に公平な分割案を考え、相手にもそれが落としどころであることを理解してもらう交渉を行います。

 

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