第16.遺産分割協議書には何を書けばいいのか

1.遺産分割協議書に書く内容

(1)遺産分割協議書の構成

 多くの遺産分割協議書は以下のような構成をとっています。

 

タイトル 

あたま書き

遺産の範囲の確認

分割方法の取り決め

清算条項

他に遺産が見つかったときの分割方法の取り決め

 

(2)タイトル

 「遺産分割協議書」とするのが通常です。

不動産登記実務上、「遺産分割協議証明書」というものを作ることもあります。

 

 「遺産分割協議証明書」は、既に相続人間で遺産分割協議が行われたことを、法務局などの機関に対して相続人が、たしかに、遺産分割をしたことを証明する文書です。

 

 法務局に、不動産以外の遺産の内容や家族間の情報などを伝えたくない場合、あるいは、遺産分割協議書を一から作るのは大変なので、不動産だけ遺産分割協議があったことを証明する場合に、作成します。

 

(3)あたま書き

 これは、誰の遺産について、協議するのか明らかにするための前書きです。亡くなった人が誰なのか、相続人が誰なのか明らかにします。

 

 「被相続人〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生まれ:本籍地〇〇:死亡日平成〇年〇月〇日)の相続人である〇〇〇〇、〇〇〇〇及び〇〇〇〇は、被相続人の遺産について、以下のとおり、協議した。」というように記載します。

 

(4)遺産の範囲の確認

 不動産や預貯金、株式などの遺産の一覧表を作成して、「別紙遺産目録」として添付するか、協議書内に、全ての遺産の内容を列挙します。これは、被相続人名義の遺産であっても、実は、第三者の遺産であり、後日、これを理由に紛争が再発しないよう防ぐ趣旨です。

 

 専門家が作成する際には、「相続人全員は、別紙遺産目録記載の財産が、被相続人の遺産であることを確認する。」等の文章を記載し、「遺産目録」という別紙を添付することが多いです。

 

(5)分割方法

ア.原則形態

 甲、乙、丙という3種類の遺産があり、どれも均等な遺産だと仮定します。

その場合の分割方法の記載例はこのような記載になります。

 

「甲を〇〇〇〇が取得する。

 乙を〇〇〇〇が取得する。

 丙を〇〇〇〇が取得する。」

 

 実際に協議書を提出する金融機関や法務局に、分配方法が分かるように注意して書きましょう。

 

イ.代償分割

 遺産が甲しかなく、甲を相続人の1人が取得し、他の相続人には金銭を払うという分割方法を代償分割といいます。

 

 この場合の分割方法の記載例はこのような記載になります。

 

「甲は〇〇〇〇が取得する。
 〇〇〇〇は、甲を取得した代償として、〇〇〇に対し、 〇円を支払うこととし、これを平成〇年〇月〇日限り、 〇〇〇の指定する口座に振り込む方法により支払う。」

 

(6)清算条項

 清算条項とは、遺産分割協議書で取り決めた遺産について、取り決めた分割方法以外には、今後、お金のやりとりがないことを確認する条項です。

 

 これは、例えば、相続人間の相続した遺産の額が不均衡だった場合に、後になって、相続が不均衡であったことを相手に対して主張することができないことを確認する誓約です。

 

「相続人全員は、被相続人〇〇〇〇の遺産について、本遺産分割協議書に定める他、何らの債権債務関係がないことを確認し、名目いかんを問わず、金員の支払を求めない。」等と記載します。

 

(7)他に遺産が見つかったときの分割方法

 甲、乙、丙という3種類の遺産について、分割方法を取り決めた後、万が一、丁という遺産が出てきたときに、どう分けるのかを取り決める条項です。

 

 再度話し合って決めるのであれば、以下のように記載します。

 

 「新たな遺産が見つかった場合には、その分割方法については別途協議する」

 

2.書く紙の枚数や大きさ

 枚数や大きさに制限はありません。

 

 ただし、2枚以上になる場合には、「契印」をする必要があります。2枚の紙の左端をホチキス止めし、1枚目をめくった1枚目と2枚目の境に、署名欄に押印した印鑑と同じ印鑑で、押印します。これは、複数枚の紙が一体であることを証明する印です。

 

通常は、相続人全員が「契印」します。

 

協議書が2枚に渡ると契印が必要となり、相続人の中で押し忘れる人が出てくる等の問題が生じる可能性があります。2枚になるようであれば、紙のサイズを大きくすると問題が起きにくいでしょう。

 

3.住所は必要か

 法律上、住所を書くことは必須ではありませんが、実務上は、住所も記載します。

 

 遺産分割協議書は、相続人全員(放棄者を除く)が署名する必要があります。

 

 もし、住所が記載されていないと、同姓同名の人が署名している可能性を否定できず、有効な遺産分割協議書なのか分からないなどと理由をつけ、金融機関や法務局は受付をしません。

 

 住所の記載がなくても相続人全員が合意したのであれば、遺産分割協議書は当事者間では有効ですが、当事者間で有効であっても、目的となる預金の解約ができなければ遺産分割協議書を作成した実益がなくなります。

 

 したがって、実務上は、住所を記載します。

 

 住所を書く際には印鑑証明書に記載された住所と同じ住所を書くことが一般的です。遺産分割協議書に記載した住所と、提出する印鑑証明書に記載された住所が異なると、金融機関や法務局の受付ができないことがあります。

 

4.印鑑は実印か

 法律上、実印での押印は必須ではありませんが、実務上は、実印で押印します。

 

遺産分割協議書は、相続人全員が作成したのであれば、印鑑が無くとも有効なはずです。

 

 しかし、金融機関や法務局からすれば、本当に相続人が署名押印したのかを確認することができません。

 

 そのため、当事者間では有効な遺産分割協議書であっても、名義変更をするときに、実印で押印されていないと、金融機関や法務局に受け付けてもらえません。

 

 そこで、実印で押印をし、印鑑証明書を提出することで、本当に相続人が合意して作成したということを証明します。

 

5.作る部数は

 相続人の人数分作ることが多いです。

 

 しかし、名義変更手続を行う担当を決め、その人に1枚の原本を預け、その写しを他の相続人に交付するという場合もあります。そのため、全員分作らなければならないわけではありません。原本が必要な人数分つくればよいでしょう。

 

6.まとめ

 遺産分割協議書の形式は、そこまで厳格な取り決めがあるものではありません。

 

 しかし、実務上の効果が得られるように注意しましょう。

 

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