第2.遺族が忘れずに申請しておくべき葬祭費・埋葬料・遺族年金などの手続
1.健康保険の仕組:葬祭費・埋葬費の支給を受ける方法
健康保険の仕組み
日本国民は、次のいずれかの医療保険に加入しています。
① 企業等に雇われている人が加入する健康保険組合、協会けんぽ(全国健康保険協会)などの被用者保険
② 自営業者などが加入する国民健康保険
③ 75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度
これを国民皆保険制度といいます。
国民皆保険の制度によって、日本国民は保険制度を支える保険料を負担するとともに、自己負担分の治療費を支払うことで適切な医療を受けることができます。
葬祭費の申請方法
健康保険から支給される給付の中に、「葬祭費」「埋葬料」という給付があります。
国民健康保険加入者が死亡したことによって、葬儀を行ったときは、葬祭費の支給を受けることができます(国民健康保険法58条)。
具体的な金額は、条例に定められており、数万円の葬祭費を受け取ることができます。そして、申請書は市役所に用意されています。
同様の規定は、被用者保険について規定した健康保険法100条にも定められています。申請書はお勤めの会社で加入している健康保険組合または協会けんぽから取り寄せることができます。
葬祭費などの給付金を受け取り、少しでも葬儀費用の負担が減れば、相続人間での話し合いが進めやすくなるため、受給できるものは忘れずに申請しましょう。
2.遺族年金に関する手続
遺族年金とは
故人が受給していた老齢基礎年金の受給権や障害基礎年金の受給権は、受給権者の死亡によって消滅します(国民年金法29条、35条1号)。
その代わりに、遺族は申請をすることで、遺族年金と呼ばれる年金を受給することができます。
遺族年金は、世帯の生計の担い手が死亡した場合に、その故人によって生計を維持されていた遺族の生活が困窮しないよう、所得補償をする仕組みです。
遺族年金には、国民年金法を根拠とする遺族基礎年金・寡婦年金・死亡一時金、厚生年金保険法を根拠とする遺族厚生年金があります。
遺族基礎年金とは
遺族基礎年金とは、故人に扶養されていた18歳までの子供の生活保障をするため、遺族に支給される年金です。
生前の保険料の支払状況にもよりますが、被保険者または被保険者であった者が死亡すると、一定の場合、その配偶者又は子は、遺族基礎年金を受給することができます(国民年金法37条)。
配偶者については、故人の死亡当時に故人によって生計を維持され、かつ、子の年齢が、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあり、生計を同一にしているという要件を満たす必要があります(国民年金法37条の2)。
遺族基礎年金を受給できたとしても、子が18歳に達する日の3月31日が到達すると、原則として失権します(国民年金法40条)。
寡婦年金とは
寡婦年金とは、残された妻が、自分の年金を受け取れるようになるまでの間、生活を維持するための年金です。
夫が25年以上、国民年金の第1号被保険者として保険料を納付しており、かつ、婚姻期間が10年以上あるとき、夫が死亡すると、夫に生計を維持されていた妻は、寡婦年金と呼ばれる給付を受け取ることができます(国民年金法49条、51条)。
ここにいう、第1号被保険者とは、主に自営業者の方です(国民年金法7条1項1号)。
受給期間は60歳から65歳になるまでの間です(国民年金法49条3項、51条)。
1人1年金の原則から、他の遺族年金との併給はできません。そのため、他の遺族年金が受給できない場合に、寡婦年金の申請を行うことにメリットがあります。
死亡一時金とは
死亡一時金とは、遺族基礎年金を受給することができない妻などの遺族が、12万から32万円程度の一時金を受け取ることができる制度です。
3年以上、国民年金の第1号被保険者として保険料を納めてきた第1号被保険者が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受給することなく死亡した場合、その遺族が、死亡一時金と呼ばれる給付を受け取ることができます(国民年金法52条の2)。
ここにいう、第1号被保険者とは、主に自営業者の方です(国民年金法7条1項1号)。
遺族が遺族基礎年金を受給することができるときは支給されませんが(国民年金法52条の2第2項1号)、要件を満たす場合には忘れずに申請しましょう。
なお、寡婦年金と死亡一時金は、両方の要件を満たす場合でも、いずれか一つしか選択できません(国民年金法52条の6)。
遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、故人が会社員などであった場合に、故人に生計を維持されていた遺族の生活を保障するための年金です。
厚生年金の被保険者または過去に被保険者であった者で、一定の要件を満たしている者が死亡した場合、遺族は、遺族厚生年金を受給することができます(厚生年金保険法58条)。
遺族厚生年金の支給対象者は、死亡当時、故人に生計を維持されていた妻(子の有無を問わないが妻が30歳未満の場合は有期)、子(配偶者が遺族年金の受給権を有する間は支給停止)、55歳以上の夫・父母・祖父母、または、孫です(厚生年金保険法59条1項)。
遺族の全員が受給できるわけではなく、優先関係があります(厚生年金保険法59条2項)。
なお、配偶者が遺族厚生年金の受給権を取得したときに、その年齢が30歳未満であり、かつ、原則18歳までの生計を同一にした子がおらず遺族基礎年金を受給できる立場になかった場合には、5年を経過することで失権します(厚生年金保険法63条1項5号イ)。
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