第10.相続に必要な出生から死亡までの戸籍謄本等の取り寄せ方
1.戸籍制度の概要
日本の家族関係を整理するため、市町村は、その区域内に本籍がある夫婦と子をひとまとめにして、戸籍簿を編成しています(戸籍法6条)。
結婚すると、夫婦で新しい戸籍を作成し、夫婦のいずれかを筆頭者に、もう一方を2番目に、お子さんが生まれたら3番目以降に記載します(戸籍法14条)。
戸籍は、その筆頭に記載した者の氏名及び本籍で特定します(戸籍法9条)。例えば、夫を筆頭者としている場合には、その配偶者は、「夫の戸籍に入っている」と表現します。
2.戸籍制度の事例
相続が発生したときに、どのような戸籍が必要になるか以下の事例で紹介します。
AとBが婚姻し、Cが生まれました。Bが先に死んだときに、AやCは、どの戸籍を揃えれば、Bの相続手続ができるのでしょうか。
Aが戸籍の筆頭者の場合、B、Cは、Aの戸籍に入っています(戸籍法9条)。
そして、戸籍に入った親族が死亡すると、死亡の年月日は、死亡届出によって役所に伝わり(戸籍法86条)、役所で戸籍に記載されます(戸籍法施行規則35条6号、40条1項)。
死亡すると、死亡した人は、戸籍から除かれます(戸籍法施行規則40条1項)。除かれるといっても、削除されるのではなく、身分事項欄に、死亡により除籍された旨が記載されます。これを「除籍される」と表現します(戸籍法23条)。
そのため、Aの戸籍謄本を取得すれば、BがAの配偶者であること、CはAB間の子であること、Bは死んで除籍されていることが分かります。
このとき、Aの戸籍謄本だけで、Bの相続を証明する証拠として十分でしょうか。
一見、Bの相続人は夫であるAと、子であるCであることが明らかであると思われます。
しかし、これでは不十分です。
Aの戸籍に記載されているBの情報は、AとBが結婚したときからのものしかありません。
そのため、ABの婚姻前の情報が記載されておらず、過去の婚姻歴やこれによる別の男性との間の子がいないことは証明されません。
したがって、Bの相続手続には、BがAの戸籍に入籍する前の戸籍も調査する必要があります。
「Bには、Aとの間に生まれたC以外に、子がいないこと」つまり、Cと同じ順位の相続人がいないことを証明するため、Aの戸籍だけでなく、Bが生まれたときから婚姻するまで全ての戸籍を揃えていく必要があります。
また、戸籍は、明治、大正、昭和と、それぞれの時代によって様式が異なり、改製されてきました。古い情報は、新しい改製後の戸籍にすべては転記されていません。そのため、戸籍が改製されている場合には、戸籍の改製前の戸籍(改製原戸籍といいます)も必要となります。
したがって、結局のところ、改製前の戸籍も含め、Bの出生から婚姻までの戸籍を全て揃える必要があります。
3.戸籍の取得方法
相続人ご本人でも、きちんと手順を踏めば戸籍を揃えることができます。しかし、通常、弁護士や司法書士に戸籍を揃えてもらい、名義変更を行っていることが多いです。
取得した戸籍謄本は、ほとんどの名義変更手続で原本を提出しなければならず、複数枚用意する必要があり、多くの時間と費用をとられてしまいます。
なお、平成29年5月29日から、法務局にて一度戸籍を登録すれば相続情報を集約した証明書を発行してもらえる制度(法定相続情報証明制度)が始まりました。そのため、この証明書を取得すれば、その後の手続が簡易になります。しかし、この証明書を発行してもらう作業が複雑なため、専門家の協力が必要です。
さらに、市町村は、その区域内に本籍がある方の戸籍しか管理しておらず、戸籍が一か所で揃わないことも多いです。その場合、本籍地の市役所で取り寄せる必要があります。
配偶者や子であれば、戸籍謄本の交付請求の資格があります(戸籍法10条1項)。
4.戸籍で説明できないこと
戸籍には本籍地が記載されていますが、「住所」が記載されていません(戸籍法13条)。
したがって、故人の住所を証明したいときは住民票の除票の写しが必要となります。
- 第1.死亡後に必要な届けや手続きの一覧と届出先・必要なもの
- 第10.相続に必要な出生から死亡までの戸籍謄本等の取り寄せ方
- 第11.遺産分割の全体像(遺産分割協議書の作成・法定相続分・具体的相続分・寄与分・特別受益・分割方法)
- 第12.死亡直後に問題となる故人の契約(賃貸契約・水道光熱費・クレジットカード)の相続手続・清算方法
- 第13.相続の放棄のメリット・デメリットと相続の放棄の期間・手続
- 第14.死亡した家族の所得税・相続税の申告・納税の手続
- 第15.家族が業務中に死亡した場合の労災保険の申請や損害賠償の流れ
- 第16.遺産分割協議書には何を書けばいいのか
- 第17.遺言書による名義変更・相続手続の流れ
- 第18.遺留分を裁判所で争う訴訟のポイント
- 第19.遺産分割の調停と遺産分割の前提問題に関する訴訟のポイント
- 第2.遺族が忘れずに申請しておくべき葬祭費・埋葬料・遺族年金などの手続
- 第20.遺産分割事件の長期化によるリスク
- 第21.相続時に親子関係や認知を裁判で争うポイント
- 第22.使途不明金を争う訴訟のポイント
- 第3.葬儀費用と香典で遺産相続トラブルを避けるための記録・清算のポイント
- 第4.お墓の管理と相続でトラブルにならないための2つのポイント
- 第5.葬儀費用を争う訴訟のポイント
- 第6.故人の免許証の返還手続
- 第7.遺産(不動産、保険、株式、投資信託など)の名義変更・相続手続
- 第8.遺言書の発見と確認方法
- 第9.相続権を持つ親族と相続順位