第7.遺産(不動産、保険、株式、投資信託など)の名義変更・相続手続

1.遺産の名義変更の共通点

(1)遺産が放置される背景

 相続が発生した場合、遺産の種類が預金や現金だけなら、名義変更は比較的容易です。なぜなら、預金なら解約、現金ならそのまま分配することで手続が終わります。そのため、放置されることは少ないです。

 

 しかし、不動産、保険、株式、投資信託などの遺産がある場合異なります。これらの名義変更が必要となる場合、ほとんどの場合において遺産分割協議書または各金融機関所定の合意書に相続人全員が署名し、かつ、実印を押印し、印鑑証明書を添付しなければなりません。

 

 そのため、名義を変更できないままとなっている遺産はきわめて多いです。

 

 名義変更ができなければ、被相続人が相続人のために残した遺産の趣旨に反します。さらに、いつまでも相続争いを続ければ、次世代に引きつぐことになってしまいます。

 

 また、預貯金ですら、相続人全員の印鑑がそろわず、放置されていることもあります。

 

(2)遺言書がない場合には要注意、名義変更できない遺産が多い

 遺言書があれば、このような名義変更の手続は非常に簡単です。

 

 遺言書の内容を工夫することで、相続人全員ではなく、遺産を受け取る人が1人で窓口にいけば名義変更・解約手続ができるようになります。

 

 しかし、遺言書がなければ、相続人間で協議をしなければなりません。

 

 例えば、相続人のうち、1人でも、話合いに応じなければ、名義変更ができません。そうなれば、名義変更のために家庭裁判所で遺産分割調停・審判をしなければなりません。

 

 遺産のなかでも、不動産の名義変更はとても難しいです。なぜなら、ほとんどの人が不動産の名義が誰になっているのかを正確に理解できていません。

 

 日本の不動産の名義の管理は、不動産登記制度を前提に法務局が行っています。一方、不動産を所有していることに対する税金である固定資産税の管理は、その不動産の所在地の役場が行っています。

 

 そのため、不動産登記制度と固定資産税はまったく異なる制度であり、完全な縦割り行政となっています。

 

 そこで、不動産登記の名義が変わっていなくても、役場は相続人を調査し、相続人の1人に対して、固定資産税の納付通知書を発送します。

 

 納付通知書を送付された相続人は、名義を変えていなくとも固定資産税の全額を払う必要があります。そして、「納税通知書が届いているから、名義も変わっている」と誤解する方が多くいらっしゃいます。しかし、あくまで不動産の名義は、法務局に申請しなければ変更できません。

 

 特に地方では、明治や昭和に亡くなった方の名義のままになっている不動産なども散見されます。

 

 住み続けるだけなら問題はないかもしれませんが、第三者に処分するとき、10人以上の実印を揃えなければならないという事態が少なくありません。そうなると、実際には実印を揃えることができず、処分ができない不動産が生まれます。しかし、固定資産税の納付義務は消えることはありません。

 

 また、有価証券についても名義変更の手続が煩雑なのは同様です。

 

 有価証券については、固定資産税などの税金が発生しないため、保有に関しては、名義が変更できないままでも資産以上の損をすることは無いでしょう。

 

 しかし、放置していれば現金化することが難しくなることが予想されます。そのため、できるだけ早期に名義変更の手続を行うことが必要です。

 

(3)次の世代に問題を残さない

 名義変更が放置されている理由はいくつか考えられます。しかし、すぐに手続を再開しなければ、次の代の負担はさらに増えると考えられます。

 

 現在であれば数人の実印で足りたものが、次の代になれば、何十人もの実印が必要になるかもしれません。

 

 名義変更の手続は、遺産の内容によっても異なりますが、おおむね①名義人の相続関係がわかる戸籍を調べる、②相続人全員の署名と実印での押印をもらう、という手続です。手続は単純なものです。そして、順序を経れば、遺産の名義は必ず変えることができます。

 

 戸籍の調査や相続人の所在・意思確認は、ときに専門的な知識を要することや、当事者間では話しづらい事情が存在することもあります。

 

 そんなときは、弁護士等の専門家に相談しましょう。

 

2.不動産の探し方・名義変更

(1)不動産の探し方

 不動産が所在する市町村は、固定資産税を課税するため、固定資産課税台帳を作成しています。

 

 そして、同一の所有者に帰属している不動産を一覧表にしたものを名寄帳(なよせちょう)といいます。

 

 相続人は、地方税法387条382条の2第1項の規定に基づき、名寄帳の写しの交付を受けることができます。

 

 この一覧表によって、およその不動産を把握することができます。

 

(2)不動産の名義の確認

 固定資産税の納税者と不動産の(登記)名義人は、必ずしも一致していません。

名寄帳に記載があっても、先代の名義のままになっていたり、他の相続人が固定資産税を納税したりしているために、故人に持分はあっても、名寄帳に載っていないことがあります。

 

 そのため、不動産が誰の名義になっているかを確認するには、法務局で、不動産登記事項証明書を取得する必要があります。

 

 また、権利証では現在の名義が誰になっているか分かりません。権利証は、権利を取得したときに交付されるもので、その後の不動産の名義の変更は記載されません。

 

(3)不動産の名義変更の手続

 故人の名義になっている不動産について、名義を変更するには、相続人が、法務局に不動産登記申請を行う必要があります。

 

 そのとき、相続人が確定できる戸籍謄本、被相続人の戸籍の附票、実印が押印された遺産分割協議書、印鑑証明書、相続する方の住民票の写しなどの資料を添付して、法務局に所有権移転登記申請書を提出します。

 

 この手続は本来、相続人本人でできる建前となっていますが、手続が少し複雑で、司法書士もしくは弁護士が代理をして申請をすることが多いです。

 

 もし、故人よりさらに前の代の名義になっている不動産がある場合、故人の兄妹や甥・姪といった親族も含め、古い遺産分割協議から順番に実施していき、名義変更を順次していく必要があります。

 

3.預貯金の探し方・名義変更

(1)預貯金の探し方

 金融機関には守秘義務があります。そのため、いきなり窓口にいっても預貯金の有無を教えてくれません。

 

 そこで、預貯金については、相続が発生した後、被相続人が死亡したことが分かる戸籍謄本、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本を各金融機関に提出すれば、金融機関が故人名義の預貯金があるか開示してくれます。

 

 また、支店ごとに照会をするのではなく、金融機関の本店に対して、全支店の預貯金の照会をすると、手間が省けます。

 

 なお、故人が金融機関に届けていた住所が古い住所のままで、死亡時の住所と一致していないと、金融機関は同姓同名の人物との区別ができず、名義人の特定ができないため、誤って遺産が無いと回答されることがあります。

 

 そのような場合には、戸籍の附票という住所の変遷を証明する書類が本籍地の市町村役場で取得できるので、これを添付しましょう。

 

(2)預貯金の解約の仕方

 金融機関は、原則として、遺産である預貯金を、相続人の1人だけに払うことはありません。

 

 通常は、相続人のうち、払い戻しを受ける代表者を選ぶための届出書の提出を求められます。この届出書には、相続人全員の実印と印鑑証明書の添付が必要なことが多いです。

 

 したがって、原則として、相続人全員が印鑑を押さないと、解約ができません。

 

 なお、遺言書があり、遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者が単独で解約することができます。

 

4.自動車の名義変更

 故人が使用していた自動車を相続する人が決まったときは、相続を原因として、新しい所有者に名義の移転登録の申請をする必要があります(自動車運送車両法13条1項)。

 

 また、自動車検査証の記載事項にも変更が生じるため、国土交通大臣が行う自動車検査証の記入を受ける必要があります(13条3項67条1項)。

 

 申請先は、当該自動車を新しく使用する者の本拠地を管轄する運輸支局です。

 

 印鑑証明書、車庫証明書、車検証、自動車税・自動車取得税申告書、相続関係が分かる戸籍謄本、遺産分割協議書等の資料が必要となります。

 

 移転登録の申請期限については、死亡から15日以内と自動車運送車両法では定められています。しかし、通常、死亡15日以内に、取得者が決まることは多くないと思われます。そのため、移転登記が15日を過ぎても罰則はありません。

 

 しかし、名義変更をせず、放置していた場合に不利益を被る場合があります。

 

 名義変更をしていない状態の自動車は、相続人全員の共有の自動車ということになります。

 

 そのため、名義変更未了の自動車税や軽自動車税については相続人全員が連帯して納税する義務を負います(地方税法10条の2)。

 

 また、相続人1人が単独で運転して人身事故を起こした場合に、他の相続人も、車の所有者として責任を負う場合があります(自動車損害賠償保障法3条)。

 

 税金や賠償責任の点を考えると、速やかに移転登録をするのが良いでしょう。

 

5.株式・投資信託の名義変更

(1)株式の譲渡方法と窓口

ア.株券がある場合

 上場株式の株券が発見された場合、その株券自体は電子化によって無効となっています。

 

 そして、株券が無効となる代わりに、株式は、上場会社が信託銀行などの管理機関に開設している「特別口座」で管理されています。

 

 そのため、相続人が証券会社で取引口座を開設し、特別口座から、取引口座に移さなければなりません。

 

 非上場企業であれば、株式が電子化されていない場合があります。そのときは、株式会社に対して、直接、株主名簿の名義変更を請求しなければなりません。

 

 相続人は、株式会社に対して、相続をしたことを証明する書面(戸籍謄本、遺産分割協議書等)を提出する必要があります(会社法施行規則22条1項4号)。

 

イ.株券が無い場合

 株券が見つからない場合でも、故人が、①上場株式を振替制度によって管理しているケース、②中小企業などの上場していない株式を所有しているというケースが考えられます。

 

 故人が、上場株式を振替制度を利用して所有していた場合には、証券会社からの通知書等の書類が遺品に含まれているはずです。証券会社に問合せをしましょう。

 

 相続人の名義に移すには、相続人が証券会社に取引口座を開設し、遺産分割協議書など相続をしたことを証明する書類を提出して、株式を相続人名義に移さなければなりません。

 

 故人が中小企業の株式を所有していた場合には、例えば、通帳などを確認すれば、配当金が入っていることがあります。さらに、会社役員をされていた場合には、その会社や関連会社の株式を所有していた可能性もあります。

 

これらの株式会社に対し、死亡の事実を伝え、株主名簿の変更を請求する必要があります。

 

 

(2)投資信託の相続と窓口

 投資信託についても、上場株式と同様に、証券会社を通じて相続人が口座を開設し、移管する必要があります。

6.生命保険金の受領

(1)生命保険の特徴

 生命保険金の受取人が指定されている場合、生命保険金は、受取人の固有財産と考えられています。つまり、遺産ではありません。

 

 遺産ではないため、受取人が他の相続人の同意なく単独で受領することができます。また、相続の放棄をして相続人の地位を失っても生命保険金は受領できます。

 

(2)生命保険金が特別受益といえるか

 相続人が2人しかおらず、片方だけ生命保険金の受取人になっていた場合、他の遺産については、生命保険金を含めて平等に分配するのでしょうか。それとも、単純に残った遺産だけを均等に分ければいいのでしょうか。

 

 結論としては、場合によって異なります。

 

 生命保険金は遺産ではないことから、原則として、生命保険金と遺産の分割方法は関連しないはずです。

 

 しかし、生命保険金額の遺産に対する割合が高く、遺産を分配するだけでは著しく不公平と言える場合には、例外として、生命保険金を遺産の前渡しである特別受益と評価して、遺産の分配方法を調整することがあります。

 

 この点は、裁判例も、事案によって結論を変えています。

 

0120-115-456 受付時間 平日9:00〜19:00 土曜日相談実施

メールでのご予約も受付中です

0120-115-456 受付時間 平日9:00〜19:00 土曜日相談実施