第12.死亡直後に問題となる故人の契約(賃貸契約・水道光熱費・クレジットカード)の相続手続・清算方法

1.相続の効果

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。

 

 一切の権利義務とは、売主・買主などの契約上の地位や、借金も含みます。

 

 相続人は、原則として、一切の権利義務を承継するので、これを包括承継の原則ということもあります。

 

 包括承継の例としては、例えば、自動車を購入する契約をしたのに名義を変更しないまま死亡した場合、相続人は、自動車の買主としての地位を相続するので、代金を払わないといけないし、また、自動車の名義を変更してもらう権利があります。

 

 包括承継の原則には、いくつか例外があります。例えば、被相続人がした生前の契約に、「自分が死んだときは、相続人に契約が引き継がれません」という内容を合意していれば、契約が相続人に引き継がれることはありません。

 

 当たり前の話をしているようですが、そういう取り決めをしていないと、原則として相続人に権利義務が移るということに注意が必要です。

 

2.賃借人が死亡した場合

(1)賃借権の相続

 人から物を借りて、賃料を払っている人を賃借人といいます。そして、賃料を払えば人のものを使用することができる権利を賃借権といいます。

 

 賃借権は相続の対象となり、賃借人が死亡した場合、原則、相続人が賃借人となることになります。

 

 例えば、借地に建物を所有していた借地人が死亡した場合、相続人がその建物とともに賃借権を相続します。

 

 一戸建ての建物の場合には、遺産分割協議の結果、その建物を相続した相続人が賃借権を併せて取得するよう取り決めることが多いです。なぜなら、建物に住むことになった人が、今後も土地を借りるのが自然だからです。

 

 しかし、被相続人がアパート等の居住用の建物を独居で借りていた場合、相続人が継続して、そのアパートに住むことは少ないため、相続をせず、解約することが多いと思われます。

 

 解約すると、以後の賃料の支払義務の発生を食い止めることができるので、だれも使用しない場合には、早急に明け渡して、解約することが必要です。反対に、相続の放棄をしておらず、かつ、解約するのかどうか伝えていないと、相続人が物件の明け渡しが終わるまで賃料を払う必要があります。

 

(2)家財の移動

 相続の放棄をする前に、財産的価値のある家財などを処分(換価・廃棄)すると、相続を承認したとみなされることがあります(民法921条1号)。そのため、怖くて家財に手を付けられないという方が多くいます。

 

 しかし、禁止されているのは、処分であり、家財を借家ではない別の場所で保管することは問題ありません。

 

 また、相続の放棄をした後でも、家財の管理義務は継続します(民法940条1項)。

 

 したがって、相続の放棄をしたからといって、借家を放置していて良いわけではありません。放棄をしている以上、遺産の隠匿や消費は許されませんが(民法921条3号)、家財を移動させること(保存行為)は問題ないでしょう。

 

(3)未払家賃の支払い

 相続をする予定であれば未払賃料を支払っても問題はありません。

 

 しかし、もし、相続の放棄をする場合、生前に発生していた未払賃料を遺産から支払うと、相続財産を処分したとして、放棄ができなくなる可能性があります(民法921条1号)。

 

 そこで、相続の放棄も考えているけど、人間関係上、支払う状況になってしまったときは、遺産からではなく、自分の財産から支払うようにしましょう。

 

3.賃貸人が死亡した場合

(1)賃貸人の地位

 人に物を貸して、賃料を受け取る人を賃貸人といいます。

 

 賃貸人の地位も、収益を生む財産ですので、相続の対象となります。

 

(2)相続人全員が賃貸人となる

 賃貸人に相続が発生すると、相続人間で取り決めがされるまで、相続人全員が、賃貸人となります。

 

 相続人全員が賃貸人になった場合でも、賃借人が分割して賃料を支払うことは少ないので、相続人の1人が賃料全額を受領することになります。すると、自分の相続分を超える割合の賃料については、不当な利得となるので、もらいすぎた賃料については、相続人間で清算する必要があります。

 

 仮に、賃料を受領している相続人が、他の相続人に支払わない意思を表示している場合には、賃料について返還を求める家事調停を起こし、調停不成立のときは、民事訴訟を提起することになります。通常、遺産分割調停のなかで、併せて審理することが多いですが、紛争化している場合では、民事訴訟の提起もやむを得ないことがあります。

 

(3)遺産分割協議で賃貸人を確定させる

 相続人全員が賃貸人であると、清算が手間なので、通常は、相続人間で遺産分割協議を行い、賃貸物件を相続人の1人に相続させ、単独の相続人が賃貸を継続していくことが多いです。

 

(4)賃貸契約の終了

 相続人間で賃貸人が確定しない段階で、賃貸借契約を終わらせたい、つまり、賃貸借契約を解除したい場合には、解除事由があることが前提ですが、相続人間の過半数の同意をもって、解除を決定し、賃借人に対して、過半数で解除を決定したことを通知して、解除する必要があります(民法252条264条)。

 

 賃貸人が確定しているのであれば、その賃貸人から、解除の通知を行います。

 

(5)賃貸借契約の名義変更の要否

 誰が貸主で、誰が借主になっているかは、通常、賃貸借契約書の署名で判別します。

 

 そして、賃貸借契約の当事者の一方に相続が発生した場合には、契約書の署名者と相続して使用している人が違いますので、契約書の名義の変更(相続人名義で新たな契約書を作成すること)をすることが望ましいです。

 

 当事者間での賃料のやり取りは、賃料の支払という事実行為だけなので、契約書の変更をしないまま相続人が賃料の受け渡しだけ続けているという事案が大変多くあります。しかし、いざ、退去させるため、裁判をしたりする場合などに、一体だれの印鑑が必要なのか、だれが原状回復をするのかなど不明確になり、手続が止まってしまうことがありますので、相続が発生したら、不動産の名義変更と一緒に契約書の名義も変更しましょう。

 

4.水道光熱費の契約の相続手続

被相続人の電気、ガス、水道の契約も、解約しない限り、原則、相続人が引き継ぐことになります。

 

 解約しなければ、現に使用していなくても、基本料金などの費用を相続人が支払うはめになってしまいます。もう使用しないのであれば、速やかに解約をしましょう。

 

反対に、相続人の誰かが引き続き、賃借物件を借り続けるのであれば、電気会社、ガス会社、水道局に対して、所定の名義変更申込書を提出する必要があります。

 

5.クレジットカード契約の相続手続

 クレジットカードの会員資格も相続の対象となります。

 

 そのため、クレジットカード会社に死亡の事実を伝えず、放置していた場合には、年会費などの固定費が死後も引き落とされることになります。

 

 クレジットカード会社の規約には、家族から死亡の連絡があり、申込があれば、退会処理、もしくは、会員取消処理をして、年会費の発生を止めることができるよう規定されています。

 

 したがって、クレジットカード会社に速やかに解約の連絡をしましょう。

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