第20.遺産分割事件の長期化によるリスク

1.民法上のリスク

 民法には、遺産分割協議を終わらせなければならない期限についての規定はありません。

 

 しかし、長期間放置することにより、相続とは別の規定による以下のようなリスクがあります。

 

(1)債権の消滅時効

 預貯金や有価証券などの債権は、10年間行使しなければ消滅時効によりに消滅することがあります。

 

 これは、金融機関が争ってくれば問題になりますが、実務上、金融機関が時効を主張することは、正当な理由がなければ、権利の濫用として許されないことになっています。そのため、金融機関が時効を主張してくるのは、ほとんどないと思って良いでしょう。

 

 一方で、個人に貸した債権などは消滅することが多いです。

 

(2)第三者による取得時効

 不動産を放置していると、第三者が勝手に占拠している場合には、取得時効という制度によって、他人に権利を奪われることがあります。

 

(3)債権者による差し押さえ

 さらには、共同相続人の1人に、借金があると、親の代から名義を変えていない不動産などについても、法定相続分に相当する持分は、債務者の財産とみられて、差押えがされ、持分を第三者が取得するということがあり得ます。

 

(4)紛失

 遺産の紛失のおそれもあります。時間が経ち、遺産であったはずの現金がなくなったとしても、どこにいったか分からなければ相続することができません。

 

 このように、遺産分割協議書を作ること自体には民法上期限はありませんが、放置することによって、権利が消滅したり、遺産が分けられなくなるリスクがあることを念頭に置いておきましょう。

 

2.税務上のリスク

 相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内となっています。

 

 10か月がたった時点で、遺産分割が済んでいなくとも、相続税の申告期限が延びることはありません。そのため、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人が民法に規定する相続分に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。

 

 申告の際、遺産分割が済んでいないと、相続税の特例である配偶者の税額の軽減の特例や、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例などが適用できない申告になります。このような特例がないもとして申告し、その後、実際に遺産分割協議が済んでから4か月以内に、実際の取得金額に応じて、特例を適用し、修正申告又は更正の請求をしなければなりません。

 

 この特例の適用ができるのは、やむを得ない事情がなければ原則として、申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます。

 

 つまり、相続開始から3年10か月以内に遺産分割協議が成立しないと、やむを得ない事情がなければ原則として、減税措置を適用できなくなります(相続税法19条の2第2項租税特別措置法69条の4第4項相続税法施行令4条の2)。

 

 そのため、10か月の申告期限内に終了することに越したことはありませんが、税務上は、相続開始時から3年10か月を一つの目安として、遺産分割協議が終了するよう、進めていくのがよいでしょう。

 

遺産分割を放置していても良いことはありません。長期化するおそれがある場合には、遺産分割調停をしますしょう。遺産分割調停は、家庭裁判所での話合いですので、あくまで、当事者間で終わらない話合いを家庭裁判所で行うだけです。弁護士も必須ではなく、裁判は非公開です。

 

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