第9.相続人の範囲と優先順位・相続分の割合について解説

故人の遺産を相続できる人を相続人と言いますが、相続人の範囲と優先順位、それぞれの相続分の割合は、民法により法定されています。相続人の順位や遺産の割合について、誰が優先するのか?事例を挙げて解説します。

 

第9.相続人の範囲と優先順位・相続分の割合について解説

相続人の範囲と優先順位は民法により法定されています。また、法定相続人の組み合わせにより、それぞれの法定相続人の相続分の割合も自動的に決まります。

被相続人が亡くなった後、誰がどのような順位で相続人になるのか、それぞれの遺産の取り分はどれくらいになるか分からない方も多いと思います。

まずは、基本的なケースで民法で定められた相続の優先順位と割合を解説します。

 

相続人とは

故人の遺産を「包括的に承継する」ことができる人を「相続人」といいます。

包括的に承継するとは、プラスの財産だけではなく、借金も含めて引き継ぐことを意味しています。

反対に、相続をされる故人を「被相続人」といいます。

民法では、相続人の範囲が決められており、これを特に「法定相続人」といいます。

 

相続人の順位とは

相続人には優先順位があります。相続人になれる人なら、誰でも故人の遺産を相続できるわけではありません。

誰が遺産を優先して相続できるのかについては、一定のルールがあります。

一つ一つ解説していきます。

 

民法の規定

相続人の順位は、民法887条乃至890条にかけて、規定されています。誰が相続人になるかは、事例によって、何通りもありますので、まずは、基本となる条文から確認しましょう。

 

配偶者相続人と血族相続人

相続人には、血のつながった相続人(血族相続人)と、配偶者相続人の2種類があります。

 

配偶者は、常に相続人の1人に含まれます(民法890条)。

 

一方、血族相続人には、順位があり、先順位の相続人が1人もいないときに限り、後順位の相続人に順位がまわってきます(民法889条1項)。

 

血族相続人の優先順位

血族相続人の優先順位は次のとおりです。

 

第一順位 子(孫など直系卑属)
第二順位 親(祖父母など直系尊属)
第三順位 兄弟姉妹(甥・姪)

 

順番に解説します。

 

第一順位

被相続人の子は、第1順位で相続人となります(民法887条1項)。

 

被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、その者の子(被相続人の孫)が代わりに相続人となります(民法887条2項)。

例えば、親を早くに亡くし、祖父母に育てられた方であれば、祖父母が亡くなった際は、親に代わって第1順位で相続人になります。

このように、尊属の代わりに相続人となることを「代襲する」と表現します。代襲して相続人となった人を代襲相続人といいます。

さらに、 被相続人の孫も、相続の開始以前に死亡していたときは、その者の子(被相続人のひ孫)が、代襲して相続人となります(民法887条3項)。

 

親権の有無は無関係です。

被相続人に離婚歴があり、前妻または前夫との間に子がいる場合、仮に被相続人が親権者ではない場合でも、「子」であることは変わらないため、その子は、相続人となります。

このような事例では、現在の配偶者と前配偶者との間の子とが、2分の1ずつ相続分を取得するため、とても協議しづらい状況となります。

離婚後に養育費などを支払い、面会も続けるなど、良好な関係を築いていれば良いですが、そうでない場合、争いとなる場合が多いです。

 

なお、第1順位の「子」、もしくは、代襲相続人の「孫」や「ひ孫」が1人でもいるのであれば、その方が、相続人となるので、第2順位の直系尊属や第3順位の兄弟姉妹は相続人になれません。

 

第二順位

被相続人に、子、代襲相続人(孫)、再代襲相続人(ひ孫)がいないときは、直系尊属が相続人となります(889条1項1号)。

 

直系尊属とは、被相続人の両親や、祖父母、曾祖父母などを指します。両親の兄弟などは含みません。

子どもが両親より先に亡くなってしまったケースで、その子どもに子ども(親から見て孫)がいない場合が典型例です。

 

注意すべきは、両親がいないときでも、祖父母や相曽父母まで相続権があるという点です。

例えば、祖父母がその子どもや孫より長生きしている場合は、孫が亡くなった際に相続人になります。

 

直系尊属が複数人生きている場合には、より親等の近い者が、その人数によって、相続分を分散して取得します。

例えば、亡くなった人の両親が相続人になる場合は、両親が直系尊属の法定相続分を等しい割合で分け合います。

 

第三順位

第2順位となる直系尊属が誰もいないときは、最後に、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります(民法889条1項2号)。

 

子や直系尊属がいない夫婦について、相続が発生すると、夫婦が長年連れ添っていた場合でも、「兄弟姉妹」がいれば、兄弟姉妹が配偶者と一緒に相続人となります。

 

妻が長年連れ添ったという場合には、兄弟姉妹らは相続を放棄することが事実上多いです。しかし、配偶者が、死亡直前になって婚姻したとか、先祖の家や土地を守るつもりがない場合などに、自らが遺産を守ろうとして、権利を主張することがあります。

 

なお、被相続人の兄弟姉妹が相続の開始以前にすでに死亡していたときは、その者の子(甥、姪)が代襲して相続人となります(民法889条2項で民法887条2項を準用)。

一方で、甥、姪が相続の開始以前に死亡していたときは、その者の子(甥や姪の子)はさらに代襲して相続人になることはできません(民法889条2項が民法887条3項を準用していない)。代襲相続できるのは、甥、姪の世代までです。

ここは、第1順位の相続人と異なるため、注意が必要です。

 

代襲相続と数次相続の違い

代襲相続とは、本来相続人となる者がすでに死亡している場合等に、その者に代わって、その子が相続人となることです。

 

例えば、被相続人である親の相続時における第1順位の相続人として、長男と次男の2人いたけれど、長男が親より先に亡くなっている場合、長男に子がいれば、長男の子(被相続人から見て孫)と次男が一緒に相続人になります。

 

代襲相続と数次相続の違いには注意が必要です。

 

数次相続(すうじそうぞく)とは、相続人が、被相続人の死亡後に遺産分割をすることなく亡くなった場合です。

例えば、親が亡くなった時点で、長男と次男の2人が存命していたけど、相続手続きを済ませていなかった。その後で、長男が亡くなり、長男の配偶者と子が残されたケースです。

親の遺産分割協議には、長男の相続人全員(長男の配偶者と子)が、長男の代わりに相続人として参加することになります。

 

代襲相続の場合、配偶者は相続人となりませんが、数次相続の場合、配偶者も相続人となるため、注意が必要です。

 

相続人の法定相続分(相続する割合)

相続人の順位が決まったら、その相続人の中で、それぞれが遺産を取得する持分割合が決まります。

相続人の組み合わせにより、法定相続分は異なりますが、基本的なパターンでは、次のようになります。

 

配偶者のみ 配偶者100%
配偶者と子 配偶者2分の1子2分の1
配偶者と父母 配偶者3分の2父母3分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者4分の3兄弟姉妹4分の1
子のみ 子100%

 

法定相続分についての民法の規定

法定相続分については、民法900条と901条に基本的な定めがあります。それぞれの法定相続分の割合は、事例によって、何通りもありますので、まずは、基本的な事例から確認しましょう。

 

配偶者のみの法定相続分

法定相続人が配偶者のみの場合は、配偶者がすべて相続します。

法定相続人が配偶者のみとなるケースとしては、被相続人が一人っ子で、両親が既に他界しており、二人の間に子がいないケースが考えられます。

被相続人に兄弟や甥・姪がいる場合は、どれほど疎遠でも、彼らが法定相続人になるため注意が必要です。

 

配偶者と子の法定相続分

法定相続人が配偶者と子の場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1です。

子が複数いる場合は、2分の1をさらに頭数で割ります。

例えば、被相続人の配偶者と、長男、次男、長女が相続人の場合は、次のようになります。

 

配偶者 6分の3
長男、次男、長女 6分の1ずつ

 

この事例で、長男と次男、長女の母親が異なる場合でも、法定相続分は変わりません。例えば、長男は被相続人と前妻の子、次男、長女は再婚後の現在の配偶者の子というパターンです。

 

また、子は、実子と養子に関係なく、法定相続分は同じです。

例えば、先ほどの事例で長男の嫁を被相続人の養子とした場合は、

 

配偶者 8分の4
長男、長男の嫁(養子)、次男、長女 8分の1ずつ

 

このような割合になります。

 

長男が先に亡くなっていて、長男に2人の子(被相続人の孫)がいた場合は代襲相続となりますが、法定相続分は長男の分をさらに2分割して2人の子が相続するため、次のようになります。

 

配偶者 12分の6
長男の2人の子 12分の1ずつ
次男、長女 12分の2ずつ

 

配偶者と父母の法定相続分

法定相続人が配偶者と父母の場合の法定相続分は、配偶者が3分の2、父母が3分の1です。

父母がどちらも健在であれば、3分の1を2分割するので次のような割合になります。

 

配偶者 6分の4
6分の1
6分の1

 

配偶者と父母の仲が悪い場合でも、配偶者は父母の法定相続分を拒むことはできません。

また、被相続人が配偶者にすべての遺産を相続させる旨の遺言書を残していたとしても、父母は遺留分を主張することができます。

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人が最低限主張できる遺産の取り分のことです。

原則として、全遺産の2分の1について、法定相続分に応じて主張することができます。

父母が遺留分を主張した場合ですと、全遺産の6分の1は、父母に相続させなければならないわけです。

 

配偶者と兄弟姉妹の法定相続分

法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。

被相続人の兄弟姉妹が複数いる場合は、頭数で割ります。

例えば、被相続人の兄と妹が健在であれば、次のような割合になります。

 

配偶者 8分の6
8分の1
8分の1

 

被相続人の兄が既に亡くなっていて、その兄の子(被相続人の甥・姪)が2人いる場合は、兄の分を頭数で分けるので、次のような割合になります。

 

配偶者 16分の12
兄の2人の子 16分の1ずつ
16分の2

 

なお、残された配偶者と法定相続人の兄弟姉妹が疎遠の場合は、兄弟姉妹に4分の1の法定相続分を主張されるのは納得できないこともあると思います。

このような場合は、被相続人が配偶者にすべての遺産を相続させる旨の遺言書を残すことが有効です。

法定相続人の兄弟姉妹には、遺留分がないため、配偶者がすべての遺産を相続することが可能になります。

 

子のみの法定相続分

法定相続人が子のみである場合は、子がすべて相続します。

子が複数いる場合は、頭数で等しい割合で分け合います。

被相続人の子が長男、次男、長女であれば、それぞれの法定相続分は、3分の1ずつになります。

養子や異母兄弟等でも割合に違いはありません。

長男が先に亡くなっていて、長男の子が複数いる場合も、長男の法定相続分を頭数で分け合うことになります。

 

行方不明者がいる場合の対応

法律上、相続人が誰なのか分かっていても、その人と連絡がとれなければ、手続きを進めることができません。

そのため、行方不明となっている人を勝手に除外して、他の相続人だけで遺産分割を行ったとしても、その遺産分割協議は無効になってしまいます。

遺産分割協議は、戸籍の調査で判明したすべての相続人が参加して行う必要があるため、行方不明者がいる場合は、探し出して、連絡を取らなければなりません。

 

行方不明者を探す方法としては、戸籍の附票を使う方法が知られています。

戸籍の附票には、住所履歴が記載されているため、現在の最新の住所を知ることができます。住所が分かれば、郵便などで被相続人が亡くなったことや遺産分割協議に参加してほしい旨を知らせます。

 

戸籍の附票で調べても分からない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人選任を申し立てる必要があります。

不在者財産管理人は、不在者(行方不明者のこと)の財産の管理や保存を行うほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で不在者に代わって、遺産分割協議に参加することができます。

行方不明者が既に亡くなっている可能性が高いものの、死亡届が出されていないケースでは、失踪宣告の申立てを行うこともあります。

 

いずれにしても、相続人に行方不明者がいる場合は、トラブル防止のためにも、一度弁護士に相談した方がよいです。

 

相続人の順位と割合が分からない場合は弁護士にご相談ください

この記事で紹介した相続人の相続の優先順位やそれぞれの法定相続人の相続割合は、基本的な事例を基にしたものです。

実際の相続で専門家に相談しなければ解決が難しいケースでは、この記事のように法定相続人の優先順位と割合がズバリと決まらないことも少なくありません。

相続関係が複雑で、法定相続人の優先順位と割合をどのように決めたらよいのか分からない場合は、早めに弁護士にご相談ください。

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