第3.葬儀費用と香典で遺産相続トラブルを避けるための記録・清算のポイント

1.葬儀費用とは

 葬儀とは、死者を悼む儀式、これに続く、遺体の火葬、火葬後の焼骨の埋蔵・収蔵等の行為です。

 

 葬儀費用には、遺体運送、棺桶その他祭具の購入、通夜・告別式の会場費、葬儀業者費用、お布施、火葬費用などが含まれています。

 

 遺産分割をする際には、よく、これらの葬儀に関する費用、いわゆる葬儀費用の清算方法が問題となります。

 

 葬儀費用については、遺産分割時に、遺産から支出するよう合意を形成していくことが多いですが、何の名目で、いくら払っているかが明確でないと、合意形成が困難になります。

 

 そのため、葬儀業者からの明細書においては、できる限り、内訳を明示してもらいましょう。

 

 また、お布施等の領収書が発行されなかった支払については、帳簿を作成し、いつ、いくらを支払ったのか記録に残しましょう。

 

2.香典は誰のものか

 葬儀の際には、葬儀費用だけでなく、香典の取り扱いも問題となります。

 

 この点、裁判例では、香典は、葬儀を主宰している喪主へ贈与するものと考えられています。

 

3.葬儀費用や香典はどのように負担するべきか

 香典や葬儀費用については、明確な法律上の根拠がありません。

 

 一例として、遺産から葬儀費用や香典を清算するという考え方があります。この考え方は、相続人全員が納得しやすく、実務上、家庭裁判所における遺産分割調停においても合意に至るケースが多いです。

 

 しかし、近時の裁判例では、香典で足りない金額については遺産から清算できず、喪主が負担するといった結論をとるものが散見されます。

 

 その理由としては、葬儀費用は、あくまで死亡後に喪主が契約をして発生した債務であり、故人の債務とは言えないため、葬儀会社を頼んだ人が責任をもつべきということです。

 

 そのため、葬儀費用の負担をどうするかについては明確な根拠がなく、相続人によっては考え方が異なるため、後でもめるかもしれないということを事前に認識しておくことが重要です。喪主になった場合は、喪主とはいえ、一人ですべて決定するのではなく、相続人間で相談しながら進めていくのが良いでしょう。

 

4.法要や納骨費用は誰が負担するのか

 仏式の葬儀の場合、通常、「通夜」「葬儀・告別式」「出棺・火葬」「初七日」「四十九日」「焼骨の埋蔵・収蔵」という順に行われます。

 

 葬儀費用を遺産から清算するとしても、どこまでの費用を清算するべきなのかは争いがあります。これは、葬儀費用の範囲の問題です。

 

 例えば、四十九日法要や納骨代は、葬儀費用として清算できないとした裁判例があります。一方で、納骨までが一連の葬儀として必要な行為ですので、葬儀費用に含めるべきという見解もあります。

 

 また、墓地代や納骨堂の費用については、これは葬儀費用ではなく、祭祀承継者が負担するという見解があります。

 

 しかし、遺産分割調停の実務上、故人への思いから、墓地代や納骨堂の代金、永代供養費もあわせて清算していることも現状では多いです。

 

 このように、どこまでが葬儀費用として含まれ、遺産から清算されるべきかについて、考え方は様々です。

 

 昔は、家督相続人が遺産を引き受け、喪主をしていたので、葬儀費用に関する問題は起きませんでした。しかし、相続権が平等になった一方で、葬儀費用に関しては法律上の根拠がないため、喪主が契約をしたのだから負担するべきという契約責任が採用され、親族間でもめることが増えています。

 

 このようなことがないよう、例えば、墓を守る祭祀承継者には多く財産を渡すよう遺言書を作成するなど、用意をしておくと良いでしょう。

 

5.記録、清算のポイント

・誰が喪主になるのか、きちんと協議する。

・遺産や香典の管理用の口座を決める。

・明細書や領収書を管理する。領収書がなければ、帳簿を作成する。

・墓石費用など高額な支払について同意が得られない場合には、立て替えを検討する。

 

 葬儀費用を、喪主の負担とする裁判例がありますが、このような紛争は、自分たちが何の相談も受けずに実施された葬儀費用を負担することについて感情的な反発がきっかけで、事件化したものです。

 

 そのため、葬儀の内容を共有しつつ、お金の流れを明確にすれば、相続人間で葬儀費用を清算する合意がしやすくなるでしょう。

 

 また、葬儀に関する費用の範囲は、人によって考え方が大きく分かれます。墓石も当然必要という考えもあれば、納骨堂でよいという意見もあります。意見が対立する支払を遺産から支出すると、紛争化してしまうおそれがあるため、注意が必要です

 

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