遺留分侵害額請求をされたら

1、遺留分とは

遺留分とは、一定の範囲内の相続人について法律によって保障されている、相続財産から一定割合を取得できる地位のことです。

自分の財産は、遺言(又は贈与契約)によって、誰にどのように引き継がせるのか、自分の意思どおりに決めることができます。

しかしその結果、本来相続できるはずの遺族が全く財産をもらえないという場合も起こり得ます。

そこで、亡くなられた方の意思を尊重する一方で、残される家族の生活も、ある程度保障されるということです。

2、遺留分減殺請求をされたら

ある人が、遺言や生前贈与等で多額の財産を取得した場合、亡くなった方の法定相続人から、遺留分を侵害されたとして遺留分減殺請求されることがよくあります。

そこで、遺留分減殺請求された場合の解決方法をご説明致します。

 

(1)遺留分侵害額請求権が時効消滅してないか、先ず検討する

遺留分侵害額請求は、請求権者(遺留分のある法定相続人)が、相続開始及び遺留分を侵害するすべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年の経過により時効消滅します。

したがって、被相続人の死亡時(相続開始時)から1年以上経過してから遺留分侵害額請求をされたら、時効消滅していないか疑って下さい。

そういう場合には、安易な交渉で解決すべきではないでしょう。

 

(2)遺留分の金額を検討する。

<フローチャート~遺留分侵害額の算定>

遺留分算定の基礎となる財産の調査

    ↓・積極財産の調査

    ↓・贈与等の調査

    ↓・債務の調査

    ↓

②遺留分算定の基礎となる財産の確定

    ↓

    ↓

    ↓

    ↓

    ↓

③遺留分算定の基礎となる財産の評価

    ↓

    ↓・評価時点

    ↓・評価方法

    ↓・鑑定人選任審判の申立て

    ↓

④遺留分侵害額の算定

    ↓

    ↓・積極財産額の確定

    ↓・贈与財産額の確定

    ↓・債務の控除

    ↓ ・遺留分額の算定

    ↓・遺留分侵害額の算定

    ↓

遺留分侵害額の確定 

 

①遺留分算定の基礎となる財産調査 

ア 被相続人が死亡時に有していた積極財産の調査

  遺留分算定の基礎となる財産額

  =(被相続人が相続開示に有していた財産の価額)

   +(贈与財産の価額)

   -(相続債務の全額)    

 

 贈与財産の調査

民法1030条は、遺留分に加える対象となる贈与について「相続開始前の1年間にしたもの」は全て遺留分の算定対象財産に含め、それ以外のものでも、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」は遺留分の算定対象財産に含めると規定しています。

したがって、相続時に存在する財産のみならず、被相続人の生前の贈与についても調査する必要があります。

なお、被相続人が行った贈与については、「特別受益」に該当する場合もありますが、特別受益については、上記の贈与に当たらない場合であっても、原則として被相続人の贈与に算入されます(民法1044条2項904条)。

 

   不相当対価による有償行為の調査

民法1045条は、「不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす」と規定しています。

この場合も、贈与財産と同様の方法で調査をすることが考えられます。

 

 エ 債務の調査

遺留分額を確定するためには、上記アのとおり、債務を控除することになります。この場合の債務とは、被相続人が負担する債務の全てをいうとされています。

 

②遺留分算定の基礎となる財産の確定

 ア 相続開始時に有していた財産の確定

 被相続人が相続開始時に有していた財産については、①の調査により確定をすることができます。

 

イ 贈与財産の確定 

a 相続開始前1年間になされた贈与

相続開始前1年間にした贈与は、遺留分算定の基礎財産となります(民法1030条1項前段)。

1年間にした」とは、贈与契約の成立時期をもって判断すべきと考えられています。

b 遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与

 相続開始から1年以上前にした贈与であっても、遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は遺留分算定の際に考慮されます(民法1044条1項後段)。

c 特別受益財産 

 遺留分を算定する場合には、特段の事情のない限り、相続開始1年前であるか否かを問わず、また、当事者双方が損害を加えることを知っていたかを問わずに、遺留分の基礎財産に加えられます(最判平10324判時163882)。

d 持ち戻し免除財産 

持戻し免除の意思表示がされている財産についても遺留分算定の基礎財産に含まれると解されています(最決平24126判時214861)。

持戻し免除の意思表示をすることで、基礎財産を減らすことが可能となると、他の相続人との関係で不公平であり、遺留分制度の意義をなくしてしまうことになりかねないという理由です。

f 無償処分財産 

貸付金の免除などの無償処分については、贈与と同様のものとして、遺留分算定の基礎財産に算入されると考えられます。

g 贈与目的物滅失している場合

贈与目的物が減失した場合や、目的物の価格に増減があった場合には、相続開始時においてなお原状のままであるとみなして算定をすることになります(民法1044条2項904条)。ただし、受贈者の責めに帰さない事由により減失した場合は、そのものの評価額をゼロとすると解されています。

 

③遺留分算定の基礎となる財産の評価

ア 評価の基準時・評価方法の決定 

預貯金など額面がはっきりしているものは、基本的には財産の評価が時期によって変わるということはありませんが、不動産や有価証券などは、時点によってその評価額が異なりますし、評価の方法によっても、金額が大きく異なり得ます。

そのため、遺留分減殺請求事件に対応する際には、評価の基準時が問題となりますが、相続開始時を基準時として評価するのが判例です(最判昭51318判時81150等)。

 

イ 鑑定人選任審判の申立て

遺留分の算定は、当事者双方の合意を基準にして行うことになりますが、当事者双方が自己の主張する評価額から譲らない場合には、裁判所に鑑定人を選任してもらう必要があります(家事216・別表1-109)。

 

④遺留分侵害額の算定

遺留分算定の基礎となる財産総額の算定は①のとおり、相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額に贈与財産の価額を加え、相続債務の全額を控除して行います(民法1043条)。

ア 遺留分額の算定

a遺留分算定の基礎となる財産額

  遺留分算定の基礎となる財産額

  =(被相続人が相続開示に有していた財産の価額)

   +(贈与財産の価額)

   -(相続債務の全額)    

b個別的遺留分の割合

  個別的遺留分の割合

  =(民法1042条所定の遺留分の割合)

   ×(法定相続分の割合)

c遺留分額の算定

  遺留分額

  =a 遺留分算定の基礎となる財産額 × b 個別的遺留分の割合

  ={(被相続人が相続開示に有していた財産の価額)

     +(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)}

   ×{(民法1042条所定の遺留分の割合)×(法定相続分の割合)}    

 

イ 遺留分侵害額の算定 

  遺留分侵害額

  =(c 遺留分額)

   ー(遺留分権利者が相続によって得た財産額 ー 相続債務負担額)

   ー (特別受益額 + 遺贈額)  

 

上記計算の結果がゼロよりも大きい場合には、遺留分侵害があると考えることになります。

 

(3)現物返還か価格弁償かを検討する。

最高裁平成12711日判決は「受贈者または受遺者は、民法10411項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる財産について、価額を弁償して、その返還を免れることができるものと解すべきである。・・・・相続財産全部の包括遺贈であっても、個々の財産についてみれば、特定遺贈とその性質を異にするものではない・・・。」と判示しています。

したがって、遺留分の請求を受けた場合、現物取得を希望しない財産については、遺留分相当額の個別財産の持分を渡し、それ以外は価額弁償で処理する方法もできます。

ただし、改正相続法(201971日から施行予定)では、全て価額弁償(金銭での支払)になりますので、上記の解決方法ができなくなります。

 

(4)価額弁償の場合、支払い時期、金額を検討する。

価額弁償する場合、価額の算定時期は、現実に弁償がされる時、訴訟の場合には事実審口頭弁論終結時です。

遺留分を請求された人が価額弁償の意思表示をした場合、請求者が価額弁償金の支払いを請求した場合、その翌日から年5%の遅延損害金を支払わなければなりません。

訴訟になる前の、交渉や調停段階で和解した場合、損害金まで支払う事態は、ほとんどないでしょうが、判決になれば遅延損害金が付与されます。

したがって、価額弁償の意思表示は、すぐにしないで請求者側の要求内容も勘案して、価額弁償の意思表示をする時期を慎重に決めた方がよいでしょう。

特に遺言無効の訴訟とともに予備的に遺留分減殺請求訴訟をされている場合には、価額弁償の意思表示を急ぐべきではないでしょう。

遺留分について価額弁償することにしたけれど、遺留分の金額に争いがある場合、訴訟になって判決又は裁判上の和解で解決する場合が多くなります。早期解決を図る意味でも、場合によっては、請求を受けた側が考える遺留分金額を弁済または供託する方法も検討した方がよい場合があります。

 

(5)改正相続法ではどうなるか

改正相続法で遺留分減殺請求の規定が改正されました。

20197月以降に相続が開始された場合、以下のようになります。

①改正相続法では、遺留分減殺請求は、遺留分侵害額に相当する金銭を請求する権利になります。つまり価額弁償するだけになるわけです。

そうなると請求された側は、遺留分相当額の金銭を準備できない事態が生じます。

そこで、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者らが、当該金額を準備できない場合、裁判所に金銭支払額の全部または一部について、相当の期限の許与を求めることができるようになります。

 

②改正相続法では、相続人に対する贈与は、原則として相続開始前の10年間にされたものに限り、その価額を遺留分算定の財産価額に含めることになります。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したときは、相続開始前10年より前の贈与でも遺留分算定の財産価額に含まれます。

相続人以外の者に対する贈与は、原則として、相続開始前の1年間にされた贈与が、遺留分算定のための財産になります。

ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したときは、相続開始前1年より前の贈与でも遺留分算定の財産価額に含まれます。

このように改正相続法は、遺留分減殺請求された方に有利な内容に改正されました。

 

 

最後に

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