特別受益と寄与分の問題
特別受益と寄与分の問題
(特別受益の事案)
「Aさんは、妻(婚姻期間23年)、子2人(兄、妹)の4人家族です。先日、Aさんは交通事故により遺言を残さず亡くなりました。Aさんの遺産総額は2500万円となります。Aさんは、2年前には子(妹)の結婚資金として300万円を支出し、昨年は妻に家屋と土地(3000万円)を生前贈与しています。Aさんの家族は、Aさんの遺産をどのように相続することとなるでしょうか。」
(特別受益と寄与分の事案)
「同様の事案において、Aさんの事業に対して、子(兄)が大型機械の購入費として400万円を無償で提供していた場合、Aさんの遺産はどのように相続されるでしょうか。」
遺産総額が判明し、家族構成等により法定相続分が明らかになっても、直ちに各相続人の具体的な取り分が確定するわけではありません。一部の相続人に対して生前贈与等がなされている場合には、相続人間の不平等を是正する必要が生じるからです。
そこで登場するのが「特別受益」・「寄与分」の制度です。法定相続分に基づき遺産分割を行う事が相続人間の平等に反する場合、特別受益・寄与分の制度による修正がくわえられます。そして、特別受益や寄与分による修正後の相続財産を「みなし相続財産」といい、みなし相続財産を基に導かれた各相続人の最終的な取り分を、「具体的相続分」といいます。
特別受益者の具体的相続分
相続人の一人が被相続人からうけた①遺贈、又は②婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与を、「特別受益」といいます(民法903条1項)。そして、特別受益を受けた相続人がいる場合、遺産総額に特別受益の価額を加えた額がみなし相続財産となります(遺産総額に特別受益の額を加えることを「持戻し」といいます)。そして、みなし相続財産に法定相続分を乗じた額から特別受益額を控除した額が、特別受益者の具体的相続分となります。
なお、被相続人が持戻し免除の意思表示をしていた場合、当該贈与財産は特別受益に該当しないこととされます(民法903条3項)。そして、婚姻期間が二十年以上の夫婦間で、居住用不動産を贈与・遺贈した後、一方配偶者が死亡ときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます(民法903条4項)。
寄与者の具体的相続分
相続人の中に、被相続人の財産の形成に特別の貢献をした者がいる場合、貢献のない他の相続人と同様に法定相続分通りに財産を分配することは、相続人間の公平に反します。そこで、相続人の中で、①被相続人の事業に関する労務の提供又は財産の給付、②被相続人の療養看護、③その他の方法により、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者がいる場合には、相続開始時の財産総額から寄与分の額を控除した額がみなし相続財産となります。そして、みなし相続財産に法定相続分を乗じた額に、寄与分の額を加えた額が、寄与分を有する者の具体的相続分となります(民法904条の2第1項)。
寄与分の額については、相続人同士の協議により定めることとなります。相続人間の協議で寄与分の額が決まらない時は、寄与した方の請求により、家庭裁判所に定めてもらうことができます(民法904条の2第2項)。
事例の処理
1.事例前段(特別受益が認められる場合)
妻:(2500万円+300万円)×2分の1=1400万円
兄:(2500万円+300万円)×4分の1=700万円
妹:(2500万円+300万円)×4分の1-300万円=400万円
まず、妹に対する300万円の婚姻費用の支出が特別受益となります。そして、妻への居住用財産の生前贈与については、婚姻期間が20年を超えている夫婦であるため、民法903条4項により、持戻し免除の意思表示が推定されます。そうすると、みなし相続財産は2800万円となります。そして、この金額に基づいて各人の具体的相続分を計算すると、妻が1400万円、兄が700万円、妹が400万円となります。
2.事例後段(寄与分と特別受益が認められる場合)
妻:(2500万円+300万円-400万円)×2分の1=1200万円
兄:(2500万円+300万円-400万円)×4分の1+400万円=1000万円
妹:(2500万円+300万円-400万円)×4分の1-300万円=300万円
まず、相続時の財産総額に、特別受益として婚姻費用300万円を加算し、寄与分として大型機械額400万円を控除します。そうすると、みなし相続財産は2400万円となります。そして、この金額を基に各人の具体的相続分を計算すると、妻が1200万円、兄が1000万円、妹が300万円となります。