相続手続きの期限は何年以内?
相続の手続きには数多くのステップがありますが、なかには「何か月以内」「何年以内」といった期限が定められているものもあります。
期限を過ぎてしまうと思わぬデメリットが生じるおそれがありますので、相続手続きはスケジュールと期限を確認しつつ、効率よく進めることが大切です。
1 相続手続きのスケジュール
まずは、期限のあるものも期限のないものも含めて、相続手続きの全体的なスケジュールを把握しておきましょう。
期限(期限のないものについては目安) |
手続き |
1週間以内 |
・死亡届 ・火葬許可申請書の提出 |
2週間以内 |
・世帯主の変更 ・公的年金の資格喪失届 ・健康保険の資格喪失届 ・葬祭費などの申請 ・免許証の返納 |
3か月以内 |
・遺産の調査(期限なし) ・相続人の調査(期限なし) ・故人名義の契約の清算(期限なし) ・遺言書の有無の確認(期限なし) ・遺言書の検認(期限なし) ・相続方法の選択(単純承認、相続放棄、限定承認) |
4か月以内 |
・準確定申告 |
10か月以内 |
・遺産分割協議(期限なし) ・遺産分割調停、審判(期限なし) ・遺産の名義変更(期限なし) ・相続税の申告、納付 ・遺族年金の申請 |
1年以内 |
・遺留分侵害額請求 |
2年以内 |
・死亡一時金の受取請求 |
3年以内 |
・死亡保険金の受取請求 |
5年10か月以内 |
・相続税の更正(還付)の請求 |
10年以内 |
・特別受益、寄与分の主張 |
2 期限のある手続き
次に、期限のある手続きのうち重要なものについて、注意点をご説明します。
(1)相続方法の選択(単純承認、相続放棄、限定承認)
相続放棄又は限定承認をするときは、相続開始を知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に「申述」する手続きをしなければなりません(民法915条1項、924条、938条)。
相続放棄とは、被相続人の財産を承継することを一切拒否することです。プラスの遺産よりも借金などマイナスの遺産の方が多い場合は、相続放棄を検討する必要があるでしょう。そのためにも、遺産の調査を速やかに行っておくことが重要です。
限定承認とは、プラスの遺産の範囲内でのみ、マイナスの遺産も承継することです。遺産の全体像がどうしても判明しない場合に有効な手続きです。ただし、限定承認は相続人全員で手続きをする必要があります。
3か月以内に相続放棄や限定承認の手続きをしなければ単純承認をしたものとみなされ、プラス・マイナスを問わず全ての遺産を承継することになります。
(2)相続税の申告・納付
相続税が発生する場合には、相続開始を知ったときから10か月以内に申告と納付をしなければなりません。期限を過ぎると延滞税が加算され、払えない場合は最終的に財産を差し押さえられることもあります。
ただし、相続税は基礎控除額が大きいため、課税されるケースは全体の1割もありません。まずは、次の計算式で基礎控除額を概算し、相続税がかかりそうかどうかを確認してみましょう。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
(3)遺留分侵害額請求
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される最低限の相続分のことです。遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された人は、受遺者・受贈者に対して、侵害された金額の支払いを請求することができます。この請求のことを「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求は、相続の開始と遺留分が侵害されたことを知ったときから1年以内にしなければなりません(民法1048条)。期限を過ぎると、遺言や生前贈与の内容に納得できなくても、受遺者・受贈者に対して支払いを求めることはできなくなります。
(4)特別受益、寄与分の主張
民法改正により、2023年4月1日から特別受益と寄与分を主張できる期限が相続開始のときから10年に制限されました(民法904条の3)。
特別受益の主張とは、既に被相続人から財産を受け取った相続人がいる場合、その人の相続分を法定相続分より少なくすべきであるとの主張のことです(民法903条)。
寄与分の主張とは、被相続人の財産の形成・維持に貢献した相続人がいる場合、その人の相続分を法定相続分より多くすべきであるとの主張のことです(民法904条の2)。
どちらも公平な相続を実現するための制度ですが、10年の期限を過ぎると不公平が生じていても是正することができなくなります。
3 期限のない手続き
次の各手続きには期限がありませんが、なるべく速やかに行うことをおすすめします。
(1)遺言書の検認
自筆証書遺言については、家庭裁判所で検認を受ける必要があります(民法1004条)。
検認を受けなくても遺言書が無効となるわけではありませんが、不動産の相続登記や預貯金の解約・名義変更が受け付けられないというデメリットが生じます。自筆証書遺言を見つけたら、速やかに検認の手続きを行いましょう。
(2)遺産分割
遺産分割に期限はないので、相続開始から何年が経過しても遺産分割協議ができますし、遺産分割調停・審判を申し立てることも可能です。
ただし、遺言書がなく遺産分割協議もまとまらない状態では、不動産の相続登記や預貯金の解約・名義変更ができません。放置している間に相続人の誰かが亡くなると相続関係が複雑化し、これらの手続きが難しくなってしまいます。
また、相続税の各種控除・特例も適用できないため、相続税の負担が重くなるおそれもあります。
できる限り、相続開始から10か月以内に遺産分割を終え、必要に応じて相続税の申告・納付をした方がよいでしょう。
なお、10か月以内に遺産分割を完了できない場合には、未分割として相続税を申告・納税することになります。その後遺産分割協議が成立した場合、未分割での申告した課税価格と遺産分割により取得することとなった財産の課税価格が異なる場合は、次の手続をすることができるとされています。
① 課税価格が増加した相続人 修正申告
② 課税価格が減少した相続人 更正の請求(遺産分割協議成立日の翌日から4か月以内)
未分割申告をした際、適用を受けることができなかった小規模宅地等の特例や配偶者控除については、上記の修正申告及び更正の請求の際に適用を受けることになります。
(3)預貯金口座の解約や名義変更
遺産分割ができたとしても、預貯金口座の解約や名義変更をしないまま10年が経過すると「休眠預金」となり、預金を引き出せなくなるおそれがあります。遺産分割が終わったら、解約や名義変更が必要なものについては速やかに手続きを行いましょう。
(4)不動産の相続登記
これまでは、不動産の相続登記をしなくても特にペナルティーはありませんでした。しかし、法改正により2024年4月から不動産の相続登記が義務化されます。相続や遺贈で不動産を取得したことを知ったときから3年以内に相続登記をすることが義務付けられ、怠った場合には過料というペナルティーも用意されています。
改正法の施行は2024年4月からですが、それ以前に発生した相続についても遡って義務化の対象になります。そのため、改正法の施行前であっても、不動産を相続した場合には速やかに相続登記をした方がよいでしょう。
4 相続手続きは弁護士に任せるのがおすすめ
相続が始まると、やるべきことがたくさんありますので、あっという間に手続きの期限が迫ってしまうことが多いものです。相続人同士で意見が対立し、遺産分割協議が進まないこともあるでしょう。
そんなときは、弁護士へご相談ください。何をどのように進めればよいのかについて、具体的なアドバイスが得られるはずです。ご自身で相続手続きを進めることが難しい場合には、弁護士に任せていただくことも可能です。
1人で悩んでいると時間がどんどん過ぎてしまいますので、お困りの方は、どうぞお気軽にご連絡ください。