遺言執行者の権限の明確化
遺言執行者とは、遺言に書かれた内容を実現するために必要な手続きをする人のことです。
相続税改正以前は、遺言執行者の役割や権限が曖昧な部分がありました。それを改正して権限を明確化したことで、遺言執行者が、被相続人が残した預貯金の払い戻しや、登記の申請といった作業を行えるようになったのです。
この記事では、法改正によって、遺言執行者の権限がどう明確化されたのか、Q&A形式で説明致します。
Q そもそもこれまでの遺言執行者はどんな役割だったのですか?
A 旧法では、遺言執行者を「相続人の代理人とみなす」と規定されていました(旧法1015条)
しかし、遺言執行者は、相続人や受遺者が指定される場合が多いです。
よって、遺言の内容によっては、執行者と相続人との利害が対立したり、一部非協力な相続人が現れるなどの事象が起きて、公正かつスムーズな遺言執行がなされないケースが散見されていました。
また、「被相続人が残した遺言書を実現する」という意味では遺言執行者は「被相続人の代理人」ですが、旧法では「相続人の代理人とみなす」との規定があり、立場が非常に曖昧でした。
Q 法改正によって遺言執行者の立場はどう変わりましたか?
A 「遺言の内容を実現するため」という執行業務の目的が明記されました。
改正民法第1015条には、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示していた行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と記載があります。
「相続人の代理人」という記述は無くなりました。
その代わり、「私は遺言執行者です」と明言し、遺言執行のために行動したことは、相続人と利害が対立する場合であっても、相続人に対して直接その効力が及ぶこととなりました。
さらに遺言者の権限が強化され、遺贈の履行は原則として遺言執行者しか行えないようになりました(新法1012条2項)。
また、一部の相続人が遺言執行を妨げるために財産処分などを行った場合には、これを無効(条件付き無効)とできるようになりました。
Q 相続登記の申請を遺言執行者ができるようになったと聞きましたが本当ですか?
A 本当です。特定の条件にある相続財産に関しては、遺言執行者が相続登記の申請ができるようになりました。
新法1014条2項には、「特定財産承継遺言」があれば、遺言執行者が相続登記申請ができると定められています。
特定財産承継遺言とは、遺産の中の特定の財産を相続人の一人あるいは複数人に承継させる旨が記載された遺言です。
このような遺言がある場合は、相続人に代わって遺言執行者が相続登記の申請をすることが可能です。
Q 遺言執行者と受遺者双方が名義変更手続きできる場合もあると聞きましたが?
A はい。遺言の内容によっては、受遺者と執行者の両方が手続きできる場合があります。
「~を相続させる」という文言が記載された遺言で、物権や債権を取得した当事者は、これまで通り受遺者自ら名義変更をすることができます。
よってこの件に関しては、受遺者/執行者の両者どちらでも手続きが可能です。
また、税務面から見ると、「相続させる」という内容の遺言であっても、「遺贈する」と記載した遺言であっても、『人のしを原因とする』場合は、相続税の課税対象となります。
Q 遺言執行者は被相続人の預貯金の払い戻しや解約をできますか?
A できます。しかし、いくつかの条件をクリアする必要があります。
相続登記の申請と同じように、特定財産承継遺言がある場合は、遺言執行者が預貯金の払い戻しや解約ができます。
預貯金の払い戻し・解約の場合はさらに条件が追加されており、「払い戻し・解約する預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合」のみ可能です。
遺言執行に関係のない預貯金は、遺言執行者であっても払い戻しや解約はできません。
例えば、
・遺言の中に「A銀行にある預貯金3,000万円のうち1,000万円を息子Bに相続させる」と記載がある
・遺言の中で遺言執行者が指定されている
といったケースであれば、遺言執行者は1,000万円を払い戻し手続きすることができます。
ただし、このケースでは口座の解約はできません。遺言で指定されているのが預貯金の一部のみなので、それ以上の額を払い戻したり解約したりすると、遺言執行の範囲を超えてしまうからです。
もし、遺言に3,000万円の預貯金を全額息子Bに相続させると記載がある場合は、解約手続きまで可能となります。
注意が必要なのが、遺言執行者が払い戻しや解約をできるのは、預貯金に限られていることです。
有価証券や投資信託などを含む金融商品の解約はできません。
Q 遺言執行者に関する法改正で注意すべきことはありますか?
A 遺言執行者が任務開始する際の通知義務が新たに明記されました。
法改正前の制度では、遺言執行者が遺言執行業務を始める段階になっても、相続人にその事実を伝える義務はありませんでした。
しかし、法改正後は、遺言執行を開始したらすぐに相続人にその旨を通知することが義務化されました。
遺言執行者は、就任後すぐに任務を開始し、相続人に遺言の内容を速やかに伝えなくてはなりません。
このように通知義務ができたので、相続人は、
・遺言があること
・遺言執行者が指定されていること
をすぐに知ることができます。「遺言の存在をしらなかった」ことを理由に発生するトラブルを事前に防げるのです。
Q 遺言執行者には誰がなれますか?
A 個人の他、法人も遺言執行者になれます。
実際には、相続人や受遺者が遺言執行者に指定される例が多いです。
ただし、未成年や破産者は、遺言執行者の欠格事由に当てはまるため、なれません。
相続人や受遺者の中に適した人物がいない、あるいは専門家にお願いしたいとお考えの場合は、弁護士を遺言執行者に指定することも可能です。
弊事務所でも、遺言執行者として弁護士をご指定いただけます。
また、万が一事前に指名した弁護士が遺言執行ができないリスクを避けるため、弁護士法人を遺言執行者として指定いただく方法もおすすめしております。
弁護士法人を遺言執行者に指定するメリットについては、「遺言執行者は弁護士個人より弁護士法人を指定した方がリスクが低い」をご参考にしていただければと思います。
遺言に関する相談は弊事務所にご相談ください
弊事務所では、遺言に関する相談を受け付けております。
家族に負担をかけないよう生前のうちに遺言を作成しておきたい方、亡くなった家族の遺言書が出てきたがどうすればわからない方など、たくさんの方からのご相談があります。
また、先程も説明しましたが、弁護士や弁護士法人を遺言執行者に指定する方法もございます。法律の専門家が遺言執行者となることで、相続手続きをスムーズに行うことができます。
また、第三者が間に入ることで、トラブルが多発する「争族」現象の予防効果が見込めます。
初回の相談は無料でお受け付け致します。どうぞお気軽にご連絡ください。