遺産分割の対象となる財産について
1 はじめに
相続人は、被相続人が相続開始の時に有していた一切の権利義務である遺産を承継することになりますが、全ての遺産が遺産分割の対象となるわけではありません。遺産の中には、遺産分割を経ずに当然に相続人に法定相続分に基づき分割されるものもありますし、遺産ではなくても、遺産分割の対象とされるものもあります。また、被相続人の債務は、相続人に承継されますが、遺産分割の対象ではありません。これから、遺産分割の対象となる財産について説明していきます。
2 預貯金(預貯金債権)
以前は、預貯金(預貯金債権)は、被相続人の遺産ではあるものの、遺産分割の対象となる財産ではなく、法定相続分に応じて各相続人に当然に分割されるものとされていました。
ところが、平成29年の最高裁判所の判決により、相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となる財産として扱われることになりました。
なお、預貯金債権以外の金銭債権(貸金債権、売買代金債権、請負代金債権、賃金債権など)は、相続開始と同時に法定相続分に応じて各相続人に当然に分割されることになります。
3 現金
遺産である現金は、遺産分割を経なくても相続人間で分割することができそうですが、遺産分割の対象となる財産とされ、遺産分割を経て各相続人に分割されることになります。したがって、遺産分割前には、遺産である現金を管理している相続人に対して、その他の相続人が法定相続分に基づき現金の引渡しを請求することはできません。
4 不動産
土地や建物は遺産分割の対象になります。
不動産を賃借する権利も遺産分割の対象になります。
賃料債権については、相続開始時までに発生したものは、現金又は預金になっていれば遺産分割の対象となり、未回収の賃料債権であれば、相続人に法定相続分に応じて分割されることになります。
なお、相続開始後の賃料債権は、遺産ではなく、当該不動産をどの相続人が取得するかにかかわらず、相続人に法定相続分に応じて分割されることになります。
5 生命保険の死亡保険金
生命保険契約の契約者が自己を被保険者とし、特定の相続人を保険金受取人として指定していた場合には、保険金請求権はその指定された相続人の固有の権利となりますので、遺産分割の対象にはなりません。
これに対し、保険金受取人を相続人と指定していた場合や保険受取人を指定していなかった場合には、保険金請求権は相続人が固有の権利として取得することになりますので、やはり遺産分割の対象にはなりません。
6 死亡退職金
死亡退職金については、民間企業の場合は、支給規定の有無、支給基準、受給権者の範囲及び順位などにより遺産であるか否か検討することになります。
国家公務員の死亡退職手当は、国家公務員退職手当法により受給権者は遺族であるとされており、遺族の固有の権利であって、遺産ではないとされております。地方公務員についても、条例で国家公務員退職手当法と同様に定められている場合は遺産ではないことになります。
7 遺族給付
たとえば、遺族年金は、厚生年金保険法などにより受給権の範囲や順序が定められており、遺族固有の権利であって、遺産分割の対象ではありません。
8 株式・社債・国債など
株式・社債・国債などは、遺産分割の対象とされています。
9 祭祀財産
仏壇やお墓などの祭祀財産は、祭祀の主宰者に帰属し、遺産分割の対象ではありません。家庭裁判所でも、祭祀承継に関しては遺産分割調停とは別の調停手続きで行われています。
10 金銭債務(負債)
金銭債務は、相続の開始により当然に各相続人に法定相続分に基づき承継されることになりますので、遺産分割の対象ではありません。
なお、葬儀費用支払債務は、そもそも相続開始後に発生した債務ですし、葬儀会社と契約した喪主が負担するものと解されていますので、遺産分割の対象ではありません。
11 遺産ではないが遺産分割の対象とされるもの
また、遺産分割の対象ではないとされる財産についても、相続人の全員が遺産分割の対象にするとの合意をすれば、遺産分割の対象とすることができる場合があります。
12 終わりに
これまで代表的な財産について遺産分割の対象となるかご説明してきましたが、ご説明した財産以外の財産についても、遺産分割の対象となるか検討する必要があります。
このように、遺産分割の手続を進めるためには、専門的な知識や経験が必要になることが多くなりますので、遺産分割でお困り、お悩みの方は、弁護士にご相談ください。