【在日韓国人の相続/特別受益】
【在日韓国人の相続/特別受益】
1 事案
2 準拠法
3 特別受益/韓国法制度
- 持ち戻し
- 特別受益者の範囲
- 特別受益財産の範囲
- 特別受益の評価
4 本件では
在日韓国人の相続/特別受益
- 事案
Aさんは、父、母、兄の4人家族でしたが、先日、在日韓国人の父が亡くなりました。Aさんは、大学を卒業していますが、兄は大学院に進学したため、大学院の学費500万円を父に支払ってもらっています。一方、Aさんは、結婚に際し、父から1000万円(当時)の不動産を贈与されています。現在のAさんに贈与された不動産の価格は3500万円になっています。
このとき、父の遺産が預金3000万円と7000万円相当の自宅不動産であった場合、法律どおりに遺産分割すれば、どのように分配されるのでしょうか。
- 準拠法
在日韓国人を被相続人とする相続問題は、「法の適応に関する通則法36条」により、被相続人の本国法である韓国民法の定めるところにより規制されます。
韓国人を被相続人とする相続をめぐる紛争は、韓国の裁判所においてのみならず、日本の裁判所においても韓国民法の定める基準に従って紛争が解決されることになります。
- 特別受益/韓国法制度
- 持ち戻し
韓国民法は、日本民法と同様、共同相続人の中の特定の相続人が、被相続人から生前に特別の利益を受けたりなどして、相続人間の実質的平等が損なわれた場合に備えて、特別受益制度を設けています。
そして、生前に贈与を受けた財産を現実的に返還するのではなく、具体的相続分を計算するに際して、計算上考慮するにすぎませんが、これを「相続分の持ち戻し」と呼んでいます。
なお、法定相続分を超える生前贈与や遺贈を受けた者は、超過した相続分を持ち戻す義務はありませんが、他の法定相続人の遺留分を侵害した場合は、遺留分減殺請求の対象になりますので注意が必要です。
- 特別受益者の範囲
特別受益者とは、「共同相続人中に被相続人から財産を受けた者」を指します。そのため、特定の相続人の配偶者等は特別受益者に該当しません。
- 特別受益財産の範囲
どのようなものが「特別受益」に該当するかについての明文はありません。
特別受益に該当すると解されているものの例
生活の基礎となる贈与、婚姻持参金・支度金、特別な高等教育費用。
特別受益に該当しないと解されているものの例
扶養のための費用、特別性が欠如した慣例的な贈与や婚礼費用。
- 特別受益の評価
特別受益財産をどの時点で評価するかによって額が大きく変わってしまう場合があるため、相続開始時の相続財産に特別受益を加算して、みなし相続財産を算定するにあたって特別受益財産をどの時点で評価するかが問題となります。
そこで、特別受益を考慮して、相続人別に固有の法定相続分を修正して具体的相続分を算定するにあたっては、相続開始時を基準に相続財産と特別受益財産を評価し、基礎とすることになっています。
- 本件では
- 特別受益の有無
兄、Aさんはいずれも被相続人の直系卑属で、第1順位の法定相続人であり、生前贈与はいずれも特別受益に該当します。
- 相続分の持ち戻しとその評価
被相続人の遺産である預金3000万円と不動産7000万円の合計1億円に加え、兄に対する教育費、Aさんに対する不動産は、いずれも持ち戻すことになります。その評価は相続開始時です。そのため、持ち戻し相続分評価は、500万円と3500万円で4000万円になります。
- 具体的相続分の算定
被相続人の死亡時の遺産と持ち戻し相続財産の合計に各人の法定相続分を乗じた金額から生前贈与を控除した額が最終的な具体的相続分になります。
本件では、被相続人の死亡時の遺産1億円と持ち戻し相続財産4000万円の合計1億4000万円から各相続人の法定相続分、母が7分の3、兄が7分の2、Aさんが7分の2を乗じた額に各人の控除額を差し引いた額が、最終的な具体的相続分になります。
まず、みなし財産に各人の法定相続分を乗じます。
母 1億4000万円×7分の3=6000万円
兄 1億4000万円×7分の2=4000万円
A 1億4000万円×7分の2=4000万円
次に、ここから各人の受けた特別受益を控除します。
兄 4000万円-500万円=3500万円
A 4000万円-3500万円=500万円
以上より、母が6000万円、兄が3500万円、Aさんが500万円取得することになります。
よって、実質的には、
母:兄:A=6000万:3500万:500万=12:7:1
の割合で遺産分割することになります。