遺言書が無効になる場合と無効にしたいときの手続き】無効にされたくない対処法も詳しく解説

遺言書が無効になるケースは意外と多く、遺産相続トラブルの原因の1つです。

自筆証書遺言で署名や日付が不備であったり、公正証書遺言で証人が不適格であったりした場合などが挙げられます。

遺言者の意思能力が欠如している場合も無効となる可能性があります。

本記事では、遺言書が無効となる具体的な事例や、無効にしたい場合の手続きについて詳しく解説します。

記事を読むと、自分の遺言書を無効にされないための対策も理解できるようになるでしょう。

遺言書に遺言能力が認められる条件

以前の記事で、遺言書の作成方法についてご説明させていただきました。

しかし、遺言は厳格な様式行為でありますので、作成方法を誤ることにより無効となります(民法960条)。また、内容が適切でない場合にも無効となる場合がありますので、慎重に作成する必要があります。

それでは、どのような場合に遺言書が無効となるでしょうか。以下でご説明いたします。

遺言が有効に成立するための前提として、遺言者が遺言能力を有する必要があることです。そして、遺言能力が認められるためには、①15歳以上であること(民法961条)、②「事理を弁識する能力」が必要となります(民法973条)。

 

 15歳以上であること

 

通常、未成年者が財産を処分する等の法律行為をする場合には、法定代理人の同意が必要となります(民法5条1項本文)。しかし、未成年であっても、その最終意思は出来るだけ尊重する必要があるために、例外的に15歳以上の方に遺言能力が認められています。

「事理を弁識する能力」を有すること

「事理を弁識する能力」とは、「遺言の内容及び当該遺言に基づく法的結果を弁識、判断するに足りる能力」とされています。その有無については、遺言の内容や、遺言者の病状についてのカルテなどをもとに、裁判所が個別具体的に判断することになります。

もっとも、認知症が進み、「事理を弁識する能力」が認められない成年被後見人の方であっても、一定の場合には、遺言書を有効に作成することが可能です。具体的には、「事理を弁識する能力を一時回復した時」において、医師2人以上の立会のもとで遺言書を作成し、かつ、立ち会った医師が「遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」旨を遺言書に付記して署名捺印することにより、遺言書の作成が認められます(民法973条)。

遺言書が無効となる場合

遺言は民法に定める方式に従わなければすることができない要式行為ですので、方式を欠いた遺言は無効となります(民法960条)。

全文・日付・氏名の自書がない【自筆証書遺言】

自筆証書遺言は、遺言者が、遺言書の全文、日付および氏名を自書しなければならないとされています(民法968条1項)。全文をパソコンで作成した場合や、日付・氏名の記載が無い遺言書は無効となります。

加筆・修正の手順に間違いがある【自筆証書遺言】

民法968条2項は、「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」と規定します。これらの一つでも欠けると加筆修正の効力が生じません。その結果、氏名の修正方法が間違っていた場合には、氏名が記載されていないものとして、遺言書全体が無効となってしまいますので、ご注意ください。

たとえば「黒田光宏」を「黒田充宏」に修正する場合、まず「光」の字に二重線を引いて横に「充」と書き押印をします。さらに、遺言書の末尾や空きスペース等に「氏名について一文字削除し一文字追加した」と追記し自筆で署名します。

遺言の趣旨の口授がない【公正証書遺言】

公正証書遺言の有効性については、公証人の確認がありますので、問題となる場合は多くありません。例外的に問題となる場合についてご説明いたします。

「口授」の有無について争う場合、①「口授→筆記→読み聞かせ→署名押印」という、公正証書遺言の方式が実践されていないと主張する方法と、②遺言能力がない場合には遺言の内容を公証人に口授することもできないはずであるとして、遺言能力の有無を争う中で、「口授」がなかったと主張する方法があります。

①については、判例上、公証人が予め筆記した内容を遺言者に読み聞かせた後に、遺言者がこれを承認して同趣旨の内容を口授し、その後公証人が署名捺印した場合についても、方式違反として無効にならないとして、かなり緩やかに判断されている状況です。

②については、遺言能力が認められない場合に、遺言が有効となることはありません。

公正証書遺言においては、公証人による有効性の確認がなされているものの、遺言能力の有無については別途問題となり得ます。そのため、公正証書遺言であるからといって遺言の有効性を過信せず、方式・内容について慎重に吟味した上で作成するよう心がけましょう。

不適格な証人を利用している【公正証書遺言】

公正証書遺言の作成には、2人以上の証人の立会いが必要です。そして、証人の資格については、民法で欠格事由が定められています。

①未成年者、②推定相続人及び受遺者、並びにその者の配偶者、直系血族(父母、子、孫など)、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人、にあたる者が証人として作成された公正証書遺言は無効となります(民法974条)。

共同遺言の禁止に該当する

共同遺言とは、2人以上の者が、同一の遺言書で遺言を行うことです。

共同遺言は、遺言者が互いに遠慮することにより、遺言作成において遺言者の自由意思が抑圧されるおそれがあります。また、遺言作成後に一方の遺言者の遺言撤回の自由が制約されることが考えられます。これらの理由から、共同遺言は法律上禁止されているのです。

後の紛争を避けるためにも、遺言者ごとにそれぞれ遺言書を作成することにしましょう。

遺言の方式により撤回された

遺言者は、いつでも、遺言の方式により、遺言の全部又は一部を撤回することができます。そして、撤回された遺言は、錯誤、詐欺、または強迫による場合を除き、その効力を失います(民法1025条)。

なお、前の遺言が後の遺言と抵触するときには、抵触部分について、後の遺言で撤回したものとされるのです(民法1023条1項)。また、遺言者が、生前に遺言と抵触する内容の法律行為をした場合も、その法律行為により遺言が撤回されます(同条2項)。そして、遺言者が故意に遺言書を破棄した時も、破棄した部分について遺言が撤回されます(民法1024条)。

遺言書が偽造された

自筆証書遺言を本人が書いていない場合(偽造)にも、その遺言は無効となります。

裁判で自筆証書遺言を本人が書いたか否かが争いになった場合には、筆跡鑑定が重要な証拠となります。

遺言書の内容が不明確である

遺言書を開封したときには遺言者は既に亡くなっているので、遺言者本人に記載の意味を確認することはできません。そのため、遺言書の内容は、他人にとって明確に記載する必要があります。

裁判例においては、「遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈する」と判断されているため、一部が不明確であっても、それだけで無効になるわけではありません。

しかし、無意味な相続争いを避けるためにも、遺言書の内容は明確に記載するよう心がけましょう。

錯誤により遺言をした

遺言も法律行為ですので、錯誤に基づく遺言は、無効となります。

なお、詐欺、強迫により遺言をしたときは、取り消すことができます。

遺言の内容が公序良俗に反する

公序良俗に反する内容の遺言をしていても、民法90条により、その遺言は無効となります。

遺言書を勝手に開封しても無効にはならない

封印された遺言書を開封する際には、法律で定められた手続きがあります。民法第1004条第3項によると、封印された遺言書は家庭裁判所で相続人または代理人の立会いの下で開封することとされています。

誰かが被相続人が書いた遺言書を開封してしまった場合はどうなるのでしょうか。結論から言えば、遺言書自体の効力には影響しません。遺言書の内容が民法で定められた作成方式などの要件を満たしていれば、誰かによって不適切な開封があったとしても、その法的効力は維持されます。

ただし、これは違法行為を容認するものではありません。民法第1005条では、正規の手続きを経ずに遺言書を開封した者に対して「5万円以下の過料」の規定が設けられています。

参考:e-GOV法令検索「民法」

遺言書を無効にしたいときの手続き

遺言書を無効にしたいときの手続きとして次の3つが挙げられます。

・遺産分割協議での交渉

・家庭裁判所での調停

・地方裁判所への遺言無効確認請求訴訟

以下で詳しく見ていきましょう。

 遺産分割協議での交渉

遺言書の内容を無効にしたい場合、まず検討すべきなのが遺産分割協議での話し合いです。遺産分割協議とは、相続人全員が参加して遺産の分け方を決める話し合いのことを指します。

民法第907条第1項では「相続人は遺産の分割について、協議で決めることができる」と定められています。たとえ遺言書があったとしても、相続人全員が合意すれば、遺言の内容と異なる分割方法を選択できるのです。

この協議による解決は、裁判所での調停や訴訟と比べて、時間的にも費用的にもメリットがあります。

家族を含む相続人同士が納得できる解決策を見出せれば、その後の人間関係も良好に保つことができるでしょう。

ただし、話し合いが難航する場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考:e-GOV法令検索「民法」

 家庭裁判所での調停

遺産分割協議で合意しなかった場合、次の手続きは家庭裁判所での調停です。遺言無効確認の事件では、家事事件手続法第257条1項により「調停前置主義」が採用されているためです。

遺言者の遺言能力の有無が、調停で最も多い争点となります。「遺言時に重度の認知症であり、判断能力を欠いていた」といった主張がなされることが少なくありません。

この場合、家庭裁判所が選任した調停委員が仲介役となり、当事者間での合意形成を目指します。

ただし、例外として当事者間の対立が深刻で、調停による解決が見込めないと判断される場合には、調停を経ずに直接訴訟を提起することも認められています。

参考:e-GOV法令検索「家事事件手続法」

地方裁判所への遺言無効確認請求訴訟

遺言書の無効確認を求めるためには、最終的に地方裁判所での訴訟が必要となる場合があります。調停などの話し合いで合意に至らなかったケースにおいて、法的な判断を求めるためです。

具体的な流れとしては、原告と被告が、それぞれ主張と証拠を提出し合います。裁判官は、双方から提出された証拠や主張を慎重に検討した上で、遺言書の効力について判断を下します。

訴訟の過程で当事者間の歩み寄りが見られた場合は、和解という形で解決することも可能です。

注意すべき点は、調停は家庭裁判所で行われますが、遺言無効確認請求訴訟は地方裁判所の管轄となることです。

 自分の遺言書を無効にされたくないときの対処法

自分の遺言書を無効にされたくないときには次の4つの対策が挙げられます。

・公正証書遺言の作成

・遺言執行者の選任

・元気な間に遺言書を作成

・弁護士などの専門家へ相談

以下で詳しく解説します。

公正証書遺言の作成

遺言書を無効にされないためには、公正証書遺言の作成が最も確実な方法です。公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が関与して作成される正式な文書であり、方式や内容の適法性が厳密にチェックされるためです。

公正証書遺言では公証人が内容を確認し、署名や押印も厳格に行われるため、信頼性が高いとされています。

原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません。さらに、自筆証書遺言とは異なり、家庭裁判所での検認手続きが不要である点もメリットです。

ただし、公正証書遺言でも無効となる可能性はゼロではなく、作成時に遺言者の意思能力が欠如していた場合などには無効とされることがあります。このため、専門家の助言を受けながら作成するようにしましょう。

遺言書の種類は以下の通りです。

 

公正証書遺言は、形式上の不備が生じにくく、無効になるリスクが低い遺言書の形式です。

遺言執行者の選任

遺言書を確実に執行するためには、信頼できる遺言執行者を選任することです。遺言執行者は民法第1012条の規定に基づき、遺言内容を実現するために必要な権利義務を有するためです。

公正証書遺言の証人を弁護士に依頼し、同時にその弁護士を遺言執行者として指定するといいでしょう。

公証役場で遺言書を作成する際には、公証人以外に2名の証人が必要となりますが、この証人には相続に利害関係のない第三者を選ぶ必要があります。

弁護士を証人かつ遺言執行者とすることで、法的な専門知識を生かした適切な遺言の執行が期待できます。

遺言執行者には、相続財産の管理から遺言内容の実現まで、幅広い権限が付与されるのです。法律の専門家である弁護士を選任することで、遺言が無効とされるリスクを最小限に抑えられるでしょう。

参考:e-GOV法令検索「民法」

元気な間に遺言書を作成

遺言書の無効を防ぐためには、遺言者が元気なうちに作成することです。特に認知症などの病気が進行すると、遺言能力が疑われるケースが増え、遺言書の有効性が争点となる可能性があります。

第三者から見ても遺言能力が確実であると判断できる元気なうちに、公正証書遺言を作成しておくことをおすすめします。

「まだ遺言は早い」と思う方もいるかもしれませんが、遺言内容は後からでも変更可能です。

新しい日付の遺言書を作成すれば、それが優先されるため、状況の変化に柔軟に対応できます。早めに準備することで、遺言書の無効リスクを最小限に抑えられるでしょう。

弁護士などの専門家へ相談

遺言書が無効になるリスクを避けるためには、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に相談することが効果的です。

遺言書の作成には法律上の要件が多く、形式や内容に不備があると無効と判断される可能性があります。

専門家に依頼すれば、法的に有効な遺言書を作成できるだけでなく、保管や後の手続きについても安心して任せられます。

特に弁護士は、相続トラブルの解決や遺言執行者としての役割も担えるため、トータルサポートが可能です。公正証書遺言を作成する際にも、公証人とのやり取りをスムーズに進める手助けをしてくれます。

自分で作成した遺言書が無効になるリスクを減らすためにも、専門家の力を借りることをおすすめします。相談窓口には無料で対応しているところも多いので、まずは気軽に問い合わせてみましょう。

遺言書の無効の申し立てにかかる費用

遺言書の無効の申し立てにかかる費用は次の2つです。

・裁判所への納付費用

・弁護士にかかる費用

以下で詳しく見ていきましょう。

 裁判所への納付費用

遺言書が無効かどうかを争う調停や訴訟では、裁判所に納付する費用が発生します。調停の場合、申立手数料として収入印紙1,200円と郵便切手代(裁判所によって異なる)が必要です。

一方、訴訟では、収入印紙代と郵便切手代が必要になります。収入印紙代は「訴額」(遺言が無効になることで得られる利益の金額)に基づいて決まります。

例えば、訴額が2,000万円の場合、収入印紙代は8万円程度です。郵便切手代は数千円程度ですが、相続人の人数や裁判所の指示によって変動するため、事前に確認が必要です。

これらの費用は原告が負担するため、正確な金額を把握するためにも弁護士への相談をおすすめします。また、裁判所のホームページや手数料の早見一覧表を活用して確認すると良いでしょう。

参考:裁判所「手数料」

弁護士にかかる費用

遺言書の無効を争う調停や訴訟を弁護士に依頼する場合、その費用は事案の内容や依頼する弁護士によって異なります。

一般的には「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」を参考に、遺言が無効となることで取得できる経済的利益(相続財産)を基準として算定されることが多いようです。

一方で、日本弁護士連合会の「市民のための弁護士報酬の目安」によると、定型的な遺言書の手数料は下記の通りです。(資産評価額総額が5,000万円の場合)

・公正証書遺言作成手数料:10万円前後~20万円前後が80.9%

・遺言執行者になっている場合の遺言執行手数料:20万円前後~100万円前後が91.8%

・遺言内容によって遺言執行者の仕事内容も変わるため、弁護士報酬は幅広く異なる

ただし、弁護士事務所によっては着手金を固定額に設定したり、成功報酬の割合を調整するなど異なる料金体系を採用している場合もあります。

また、控訴審や上告審に進む場合や、調停から訴訟へ移行する場合には、追加で費用が発生することもあります。詳細な見積もりについては、事前に弁護士へ相談し、自分のケースに合った費用体系を確認しておきましょう。

参考:日本弁護士連合会「市民のための弁護士報酬の目安」(P22)

 遺言書の無効に関するよくある質問

ここでは、遺言書の無効に関するよくある3つの質問に答えていきます。

・遺言書が無効になる時はどんな時ですか?

・遺言が無効になる例は?

・遺言書の無効を申し立てる費用はいくらですか?

以下でそれぞれ確認しておきましょう。

遺言書が無効になる時はどんな時ですか?

遺言書が無効になるのは下記のような場合です。

・遺言書に日付が記載されていない、または日付が特定できない形式になっている場合

・遺言者の署名や押印が欠けている場合 

・遺言書の内容が曖昧で不明確な場合

・訂正箇所の修正方法が法律に反している場合

・複数人で共同作成された遺言書の場合

・認知症などにより遺言能力が認められない場合

・他者から強要されて作成された可能性がある場合 

・証人として立ち会った人物が証人不適格者であった場合 など

 公正証書遺言が無効になる例は?

公正証書遺言が無効になるのは下記のようなケースです。

・遺言者に認知症などがあり、遺言能力が欠如していた場合

・立ち会った証人が法律上の要件を満たしていなかった場合

・遺言者本人による口授が行われていなかった場合

・詐欺や強迫、または錯誤によって作成された場合

・公序良俗に反する内容が含まれている場合 など

 遺言書の無効を申し立てる費用はいくらですか?

遺言書の無効を申し立てるには下記の費用がかかります。

・裁判所への納付費用

・弁護士にかかる費用

 

遺言内容によって遺言執行者の仕事内容も変わるため、弁護士報酬も異なります。

参考:日本弁護士連合会「市民のための弁護士報酬の目安」(P22)

まとめ:遺言書の無効に関する手続きは弁護士に依頼しよう

遺言書が無効となるのは、主に下記のケースが挙げられます。

・全文・日付・氏名の自書がない

・加筆・修正の手順に間違いがある

・遺言の趣旨の口授がない

・不適格な証人を利用している

・共同遺言の禁止に該当する など

遺言書を無効にしたいときの手続きは、以下の3つです。

・遺産分割協議での交渉

・家庭裁判所での調停

・地方裁判所への遺言無効確認請求訴訟

自分の遺言書を無効にされたくないときの対処法として、以下の4つが挙げられます。

・公正証書遺言の作成

・遺言執行者の選任

・元気な間に遺言書を作成

・弁護士などの専門家へ相談

遺言書の無効に関することは、相続人の争いになるケースも多いため、遺産相続や遺産分割などの解決実績が豊富な弁護士にご相談ください。調停や裁判にもトータルサポートで対応可能です。

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