遺言書の作成方法
1 自筆証書遺言の作成方法
2 公正証書遺言の作成方法
現在、わが国における遺言書の利用状況としては、その大半が公正証書遺言であり、自筆証書遺言の利用が1割程度、それ以外の方式はほとんど利用されていません。そのため、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つに絞って、その作成方法とご紹介させて頂きます。
1 自筆証書遺言の作成方法(民法968条1項~3項)
自筆証書遺言は、以下の方法により作成した上で、きちんと保管しておく必要があります。
(1)全文を自書(手書き)する
まず、自筆証書遺言は、原則としてその全文を自筆(手書き)する必要があります。パソコンで作成した場合には遺言書全体が無効とされてしまいますので、ご注意下さい。
もっとも、相続法の改正により、相続財産の「目録」については、各頁に署名押印をすることにより、自書する必要がないこととされました。なお、「各頁」に署名押印が必要であるため、1枚の用紙の両面に記載している場合には、両面に署名押印が必要となります。
(2)日付を書く
遺言書は何度でも書き直せますので、遺言書が複数見つかることがあります。その場合には、後に書かれた遺言書が優先されることとなります。
「令和〇年×月吉日」といった記載は、日付が特定できないため無効となってしまいます。正確に年月日を記載しましょう。
(3)氏名を自書する
氏名は、遺言者本人によることの特定の為に必要となります。
芸名などでも問題ありませんが、通常は戸籍上の氏名を書くこととなります。
(4)押印をする
以上について自書することに加えて、押印する必要があります。
印鑑は、実印でなくともよく、認印でも認められています。
実務上、拇印や指印、シャチハタの使用も認められています。
しかし、自筆証書遺言については、死後に本人のものかどうかで争いになる可能性もあります。本人の作成したものであるとの証明のためにも、作成の際には印鑑を押すようにしましょう。
(5)遺言書を保管する
上記(1)~(4)により、自筆証書遺言は成立します。
しかし、自筆証書遺言については保管について規定がありませんので、遺言書が紛失したり、破棄・変造されないように、きちんと保管する必要があります。弁護士や銀行の貸金庫などに預けておくことにより、死亡後スムーズに遺言書の存在及び内容を明らかにすることができます。
なお、「公正証書遺言を薦める理由」の記事でもご説明した様に、自筆証書遺言の保管については、令和2年7月10日から、「法務局における自筆証書遺言の保管制度」の創設により、自筆証書遺言の保管が適切になされることが可能となります。
2 公正証書遺言の作成方法(民法969条)
(1)公正証書遺言の要件
① 2人以上の証人の立会いがあること
公正証書遺言の作成には、2人以上の証人が立ち会っている必要があります。
証人が手続途中にその場を離れたり、手続の途中から立ち会った場合には、原則として遺言は無効となります。
② 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
遺言者は、遺言の趣旨を公証人に口頭で伝える必要があります。
遺言者による口授は、遺言者の自由な遺言意思を確保するために必要とされています。そのため、遺言者の意思が明確に表示された場合には、ある程度緩やかに認められています。
例えば、遺贈物件の詳細な目録を覚書に示して口授を省略した場合や、法定の順序が変更されたに過ぎない様な場合には、適式の口授があったものとされています。
③ 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせること
公証人は、遺言者から遺言の趣旨の口授を受けて筆記を行い、公正証書遺言の原本を作成します。その後、公証人は遺言者と証人に対して、公正証書遺言の原本を読み聞かせ、または閲覧させます。
④ 遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し押印すること
公証人の読み間かせ又は閲覧の後、遺言者および証人は、公証人による公正証書遺言の筆記した内容が正確であることを証人した上、各自公正証書遺言原本に署名押印します。
なお、遺言者が病気などの理由により署名することができない場合、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができます。
⑤ 公証人が①~④に従い作成した旨を付記して、これに署名し押印すること
公証人が、①~④の要件に従って作成した旨を遺言書に記載したうえで、署名押印することにより、公正証書遺言は成立します。
なお、公正証書遺言は、公証役場において保管されますので、自筆証書遺言とはことなり、保管については心配する必要はございません。
(2)公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言は自筆証書遺言と違い、公証役場への手数料や証人への報酬が必要です。
公証役場に支払う手数料は以下の通りです。
- 証人への報酬は、遺言作成者が証人を探す場合は必要ありません
- 遺言は、相続人ごとに別個の法律行為になりますので、相続人ごとに、それぞれの相続財産の価額に応じた手数料を支払う必要があります。
- 手数料令19条により、遺言加算という特別の手数料が定められています。1通の公正証書遺言における目的価額が1億円までの場合は、1万1000円が加算されます。
- 例えば、総額1億2000万円の相続財産を、配偶者のみに相続させる旨の公正証書遺言を作成する場合には、公証役場への手数料は5万6000円となります。
一方、この財産を配偶者に9000万円、子に3000万円を相続させる旨の公正証書遺言を1通作成する場合には、妻の手数料4万3000円、子の手数料2万3000円、遺言加算として1万1000円、合計6万7000円の手数料を公証役場に収める必要があります。