【遺産分割における葬儀費用の取り扱い】負担すべき人や注意点を解説

遺産分割での葬儀費用の取り扱いを知りたい方は必見。本記事では、遺産分割における葬儀費用の負担者や注意点を解説します。この記事を読むと遺産分割時の葬儀費用について正しく理解できて、相続トラブル回避のヒントを得られます。

「遺産分割で葬儀費用はどう扱われるの?」と気になる方も多いでしょう。実は、葬儀費用の負担を巡って相続人の間でトラブルになることは珍しくありません。

 

なぜなら、明確な法的規定がなく、慣習や個別の事情で取り扱いが異なるためです。本記事では、遺産分割における葬儀費用の基本的な考え方や、トラブル回避の注意点、対処法を解説します。記事を読むと、遺産分割での葬儀費用の疑問が解消し、円滑な手続きの助けとなるでしょう。

 葬儀費用とはお通夜・告別式・火葬などにかかる費用

遺産分割を進めるに当たって、葬儀にかかった費用の取り扱いは、しばしば相続人の間ではトラブルの火種となりやすい問題です。そもそも葬儀費用とは、具体的にどこまでの範囲を指すのでしょうか。一般的に考えられる葬儀関連の費用としては、以下の項目が挙げられます。

  • 遺体の搬送、火葬、埋葬にかかる費用
  • 通夜や葬式の会場費、運営費
  • 僧侶へのお布施、読経料、戒名料といった寺院にかかる費用
  • 香典に対する返礼品にかかる費用
  • 四十九日などの法要にかかる費用
  • 仏壇、墓地、墓石の購入費用など

 

実は、これらの費用について法律上の明確な定義はありません。そのため「どこまでが葬儀費用として認められるのか」「誰がどのように負担すべきか」といった点で、相続人の間で意見が分かれやすいのです。

遺産分割協議で葬儀費用の分担について話し合う際は、単に「葬儀費用」としてまとめて扱うのではなく、具体的にどの費目を対象とするのかを明確にしておくことが、後々の争いを避けるために重要です。

 

遺産分割における葬儀費用の取り扱い

遺産分割と葬儀費用の問題は切り離せない関係にあります。実務上、大きく分けて2つのケースが存在します。

1つは葬儀費用を含めた形で遺産分割協議を行うケース、もう1つは葬儀費用の負担を巡って相続人の間で紛争が生じるケースです。それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。

葬儀費用を含めて遺産分割するケース

遺産分割協議では、相続人全員の合意があれば、遺産総額から葬儀費用を差し引いた残りを分割する方法が一般的です。

費用を立て替えた相続人が他の相続人に請求し、取得分を調整することも可能です。遺産分割調停でも、合意に基づき葬儀費用の清算を含めて解決できます。

一方、遺産分割審判は遺産そのものを分ける手続きであり、原則として葬儀費用を直接清算するものではありません。裁判所が負担を命じることは原則としてありませんが、相続財産から支出されたなどの事情は、遺産分割の方法を定める際に間接的に考慮されることがあります。実務上も合意による調整が行われるケースがあります。

このように、遺産分割における葬儀費用の取り扱いは手続きで異なりますが、重要なのは相続人全員が納得する形で合意を形成することです。

葬儀費用で相続人の間で争いがあるケース

相続人の間の話し合いや遺産分割協議で、葬儀費用の負担について合意できない場合は、争いに発展することがあります。

前述の通り、遺産分割調停や審判は、基本的に遺産そのものの分割を扱う手続きであるため、葬儀費用の清算を直接的に進めることは難しいのが実情です。そのため、葬儀費用を巡る争いは、別途訴訟手続きで解決を目指します。

訴訟の類型としては、葬儀費用を全額立て替えた相続人が、他の相続人に対して各自の負担分を請求する訴訟が考えられます。

ただし、実際に多く見られるのは、相続人の1人が被相続人の死亡後に故人の預貯金を引き出し、それを他の相続人が問題視して、引き出した相続人に対して不当利得返還請求訴訟を提起するケースです。

この訴訟の中で、預貯金を引き出した相続人が「引き出したお金は葬儀費用に充てたものであり、返還する必要はない」と主張して争われるパターンが多く見られます。

訴訟に発展した場合に争点となるのは、葬儀費用として支出された金額が社会通念上妥当な範囲といえるかや、相続財産からの支出が認められるべき事情があったかなどです。次に葬儀費用の負担者について解説します。

誰が葬儀費用を負担すべきか

故人の葬儀にかかる費用は、誰が負担すべきなのでしょうか。葬儀費用について法律上の明確な定めはないため、慣習や相続人の間での話し合いによって負担者が決まります。

以下で詳しく見ていきましょう。

慣習として喪主が負担するのが一般的

葬儀費用の負担については、一般的には故人の葬儀を取り仕切った喪主が、費用を負担する慣習があります。この慣習の考え方を裏付けるものとして、名古屋高等裁判所が平成24329日に示した判決が参考になります。

この判決では葬儀費用を「追悼儀式に要する費用」と「埋葬等の行為に要する費用」に分け、前者は「儀式の主宰者」(事実上の喪主)、後者は「祭祀承継者」がそれぞれ負担すべきとの考え方が示されました。

「儀式の主宰者」とは、自らの責任と計算で通夜や告別式などの儀式を準備・実行した者のことであり、多くの場合は喪主を務めた方です。

「祭祀承継者」は、墓や仏壇などの祭祀財産を受け継ぐ人のことで、民法第897条第1項に定められています。慣習として喪主が負担することが多いのは、この判決の考え方にあるように喪主が儀式の主宰者であり、かつ祭祀承継者でもあるケースが多いためでしょう。

この判例の考え方は、現在の実務においても葬儀費用負担の基準として参考にされています。

相続財産から支出することも可能

葬儀費用は、相続財産から支出することも考えられます。法的に明確なケースは、被相続人が、生前に葬儀社と葬式に関する契約を締結していた場合です。

この契約に基づいて発生する費用は、被相続人が負っていた債務と見なされ「相続債務」として扱われます。相続人は被相続人の財産だけでなく、一切の権利義務も引き継ぐと民法第896条で定められており、この義務の中に被相続人が負っていた債務が含まれるためです。

名古屋高等裁判所が平成24329日に示した判決も、被相続人自身が葬儀契約していた場合の費用は、慣習上の負担者である儀式の主宰者や祭祀承継者の負担とはならないことを示唆しています。

つまり、相続財産が負担すべきであるという考え方を支持しているといえるでしょう。相続財産から葬儀費用を支出する場合は、まず葬儀費用を支払い、残った財産について相続人全員で遺産分割するという流れです。

合意に応じた負担相続人の間で合意がある場合

葬儀費用の負担は、最終的には相続人全員の話し合いによる合意が最も重要な意味を持ちます。

慣習として喪主が負担するとされていても、あるいは相続財産から支出できる場合であっても、相続人全員が異なる方法で負担することに合意すれば、合意内容が優先されます。これは、相続人の間の自由な意思決定を尊重する考え方に基づくものです。

例えば合意によって、特定の相続人のみが負担する、法定相続分に応じて案分する、あるいは遺産の中から特定の金額を葬儀費用として差し引くなど、さまざまな方法を選択できます。

特に、喪主1人で多額の葬儀費用を負担することが経済的に困難な場合、他の相続人と協力して費用を分担することは現実的な解決策です。

このような合意は、遺産分割協議の中で併せて行うのが一般的です。後々のトラブルを防ぐためにも、合意内容を遺産分割協議書に明記しておきましょう。

 

遺産分割における葬儀費用での注意点

遺産分割における葬儀費用の取り扱いは、相続人の間で意見が対立し、トラブルに発展しやすい要素を含んでいます。不要な争いを避けるための注意点は以下の3つです。

葬儀費用の負担を被相続人の生前に話し合う

遺産分割における葬儀費用のトラブルを未然に防ぐには、被相続人が元気なうちに家族や相続人となる可能性のある親族と葬儀について話し合っておくことが効果的です。

生前に話し合うことで、故人の意向を尊重した葬儀の準備ができるだけでなく、相続人が慌てず費用負担についても事前に認識を共有できます。

具体的に話し合っておきたい内容は以下の通りです。

  • 誰が喪主を務めるか
  • 葬儀の形式や規模(家族葬、一般葬、直葬等)
  • 葬儀にかけられるおおよその費用や予算
  • 費用を誰がどのような割合で負担するか
  • 葬儀費用をどこから捻出するか(故人の預貯金から等)

上記の内容を具体的に話し合い、可能であれば被相続人にエンディングノートなどへ書き残してもらうとよいでしょう。

被相続人に遺言書で葬儀費用の負担を決めてもらう

被相続人が遺言書を作成し、葬儀に関する希望や費用負担について意思を示しておくことも、遺族がスムーズに手続きを進めるための有効な手段です。

ただし、遺言書に記載できる内容のうち、法的な強制力を持つ「遺言事項」は限られています。葬儀費用に関する希望や指示は、これらの遺言事項には含まれず「付言事項」として位置付けられるのが一般的です。

付言事項は遺族への感謝のメッセージや遺産分割に関する考え方など、法的な効力は伴わないものの、故人の思いを伝えるためのものです。遺言書に葬儀費用の指定があっても、遺族がそれに従う法的な義務はありません。

ただし、遺言書で故人の意思が明確に示されていれば、遺族はその意向をくみ取りやすく葬儀の準備や費用負担について話し合う際の手助けになります。

遺言書の形式に不備があると無効になる可能性もあるため、有効な遺言書を作成するためには、弁護士などの専門家に相談することを検討しましょう。

葬儀費用を一時的に立て替える相続人が気を付けるポイント

葬儀費用を一時的に立て替える場合、後々の遺産分割協議で精算する際にトラブルにならないよう、ポイントを紹介します。

まず、支出した費用の証拠を確実に残しておくことが大切です。支払った際は、必ず葬儀社からの請求書や領収書を受け取り、大切に保管してください。

「本当にその費用がかかったのか」「金額が高すぎるのではないか」などと、他の相続人から確認される可能性があるため、客観的な証拠が必要です。お布施などの領収書が出ない費用については、支出した日付、内容、金額などを詳しくメモに残しておきましょう。

次に葬儀費用の捻出に際し、手元資金を使うのが難しい場合は、被相続人の預貯金から一定額を払い戻せる「預貯金の仮払い制度」の利用を検討できます。

預貯金の仮払い制度は相続開始後、遺産分割前であっても葬儀費用や当面の生活費などの支払いのために、故人の預貯金から一定額を引き出すことが可能になりました。(同一金融機関につき相続開始時の預貯金残高×法定相続分×1/3、ただし上限150万円)

預貯金の仮払い制度を利用すれば、立て替えによる一時的な経済的負担を軽減しつつ、葬儀費用をまかなえます。

まとめ遺産分割での葬儀費用のトラブルを避けるには弁護士に相談を

遺産分割における葬儀費用を巡るトラブルは、相続人同士の合意や手続きの不備から生じやすい問題です。葬儀費用の分担や遺産からの支出については、遺産分割協議書に明記し、合意しておきましょう。

不明点や争いがある場合は、早めに相続問題に詳しい弁護士へ相談することで、円滑な遺産分割とトラブル回避につながります。ぜひ当法律事務所にご相談ください。

0120-115-456 受付時間 平日9:00〜19:00 土曜日相談実施

メールでのご予約も受付中です

0120-115-456 受付時間 平日9:00〜19:00 土曜日相談実施